拾玖



「あ、やっぱ固まった」



そりゃそうだよねぇ、と笑うが小太郎は固まったまま。
未来から来た、どこのSFの台詞だよって感じだし。
私も実際言うの恥ずかしいよ。正直今も夢なんじゃないかと思ってるからね。



「嘘っぽいけど、現実なんだ。4、500年ぐらい未来から来た人間、それが私。
元々は人間だったけど、死んじゃったせいで化け物に。で、武田に拾われた。
私は生き返る為、未来に帰るため旅をしている。この前、聞いちゃっただろ? 帰りたいって」

「……」

「信じたくなければ信じなくてもいいよ。私も未だに信じられない状況だから。
小太郎に北条という居場所があるように、私は未来に居場所を持っている。
小太郎が何を言おうと、何をしようと、殺してでも私はいなくなるよ」

「……」

「こんな化け物に優しくしてくれてありがとう。それを仇で返すような真似をしてごめん。
運"悪く"会えたら、また一緒に桜でも見よう」



な? と笑いかけると、少し間を置いた後頷いてくれた。
物分りのいい嫁で助かった。
兜を外そうとすると、今度は抵抗しなかった。

犬のような硬質的な赤っぽい髪の毛が。
長い前髪のせいで顔は判別できないが、問題ない。
背伸びして、頭を撫でる。指の間をすりぬける髪の毛は思ったより柔らかかった。
お返しなのか、小太郎に頭を撫でられた。
長く骨ばった指に梳くように髪を撫でられ、苦笑する。



「ばいばい」



手を下ろすと寂しそうに口を少し開いたが、やはり無言。
しかし、口をはっきりと動かし、言葉をかたどる。



「……うん」



短く返事を一つ、微笑んで頷いた。
と、門から兵士がなだれ込んできた。
私を見つけた兵士が勇ましく叫ぶ。小太郎がいるお陰で撃たれなかったが、槍や刀が下ろされるわけではない。



「小太郎、ごめん!」

「……!?」



小太郎を担ぎ上げると、そのまま兵士達に放り投げる。
慌てて受け止める兵士を笑いつつ、私は屋根へと飛び上がった。



「私のせいで小太郎ボロボロだから手当てよろしく!
あとそこらで倒れてる忍さん皆骨折れてるから。じゃ、ばいばい」

「なっ、逃がすと思っておるのか!」

「私を追っていられる状況じゃなくなるからね」



私の遠く後ろでは武田の旗印が上がっている。
これから城は武田に包囲される。私を追いかけられる余裕などない。
では、と敬礼すると屋根から城外へと飛び降りた。

追えと叫ぶ声と、やめろと止める声。

また花見したいなぁ。
城外にまで桜の花びらが散るのを見て呟くと、青白い一筋の光が道を示すように、横を駆けていった。







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