拾陸
「もう嫌だー……」


堪らず蹲り、その場で体操座りをする。
ざわりと周りがさざめいたが、顔を上げたくない。
膝に顔を埋め、現実から逃避したくなった。

戦場の真ん中で多数の兵に囲まれ、全身火傷を負い体育座りをする神子。
異質な存在と空気に、兵士は動けなくなっている。

しゃがれた男性の声がその空気を裂くように響いた。



「蒼依−っ、これはどういうことぢゃぁああ!」



演歌を連想させる、しんみりとしたBGMが頭の中で自動再生される。
それでも顔を上げないのは、周りを“ご先祖様”が飛び回っているから。
かといってここで拗ねて朝まで時間を潰すのも難しい。

逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ……。

よし、吹っ切れた!
元気よく立ち上がり、びくりと体を震わせる爺ちゃんを見据える。
爺ちゃんの周りにはご先祖様が飛び回り、牽制してきた。
BASARA技でしか出ないと思っていたのに、デフォで登場すんのかよ。
とか思っていたが、何か様子が可笑しい。凄い勢いで魂が近づいてくる。

ひ、と喉が悲鳴をあげようと震えた。
鎌を大振りしたが、刃を通り抜け体に入り込んだ。


え、これどうなんの!?
もしやこのままご先祖様の霊にとり憑かれちゃうオチが待ってるとか!?
私の全国嫁統一大作戦、これにて閉幕って冗談だろ?
誰もそんな展開待っていないって。

狼狽するが、いくら待っても私の体は全て私の意思どおりに動く。
あれ、操られてない? 私の精神も多分いつもの私だし。


何が変わったって言うんだ。
右手の指を右から一つずつ曲げていったり、伸ばしたりと確かめる。
うん、やっぱり異常なし。

……待て待て待て。右手はさっきまで無かった筈。
生えるにしてももう少し時間かかると思っていたのに、突然何故?
原因は一つしか考えられないけどさ。



「もしや魂を吸収して回復した、とか?」



私、闇属性ってこと?
予想はしていたけど、まさかご先祖様の魂を吸収してしまうとは。
一部始終を見ていた爺ちゃんが入れ歯を飛ばしそうな勢いで叫んだ。



「ご先祖様ぁああああああっ!? 蒼依、ご先祖様で回復しおったな!」

「てへ、ごめんね」

「そんな棒読みな謝罪、心に響かぬわーっ」



老体には堪えそうな大きな武器を振り回し、地面に氷の刃を生み出す。
特大のお灸を取り出し、頭に乗せた爺ちゃんは(老人にしては)速い動きで走ってきた。

大振りな動きは、分かりやすく避けやすい。
今しがた小太郎と戦ってきたおかげで、容易く動きを見極めることが出来る。
無駄な動きをせず全て避けると、爺ちゃんが肩で息をし始めた。
お灸はすでに燃えつきかけている。



「爺ちゃん、北条くれない?」

「や、やるわけ、ないぢゃろっ」

「なんで?」

「ご先祖様が守り続けてきた小田原を守るのが、わしの務めぢゃ!」



ふーん、と素っ気無く返すと、氷が体を貫こうと襲ってきた。
飛び上がり、その先端を足でつまむように立つと、爺ちゃんを見下ろした。
鎌を伸ばし、爺ちゃんの首を引き寄せるに刃をあてがう。

途端に今まで動かなかった兵士全員が武器を構え、刃先が私を囲んだ。
化け物にそんなもの効かないのに。薄笑いを浮かべ、青ざめる爺ちゃんに問いかける。



「そのご先祖様の遺言を破ってるのに?」



言い訳は見苦しいからね。笑顔で付け足せば、開きかけた口は閉じられた。



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