拾伍

大の大人が苦痛に耐えられず呻いている。
何層にも折り重なった悲鳴を浴び、自然と下がる眉を吊り上げる。
足を折っても武器を投げるから、腕を折った方がいいということが分かった。
不恰好な手刀でも、力さえあれば骨を砕く。ただ、綺麗に折れない場合が多いから出来る限り掴んで折った。

ポキン、と軽快な音に反して悲鳴は警音のようにけたたましい。
逃がさない、と言ったものの、背を向けてくれれば追いかけないのに。
思ったのも束の間、思い出す。逃げ場をなくしたのは私自身。
門の鍵を握っているせいで、栄光門は固く閉ざされ続ける。
門番には、構えた槍の刃を素手で潰し戦意を喪失させてもらった。

あとは門を開けるだけ。と言いたいところだが、これが難しい。
小太郎の攻撃が容赦なく続くからだ。門の鍵を開けさせる暇も与えてくれない。

門を開けようと鍵を差し込んだ瞬間、右手が落ちた。
鍵を掴んだ状態の手は地面に落ちた途端肉塊と果てる。
無くなった右手を見送ると、右手を奪った手裏剣の軌跡を追った。

小太郎が私の血をべっとりとつけた手裏剣を持ち、佇む。
え、これちゃんと生えてくんの?
切断面からは鮮血が噴出し、門を濡らした。さながらB級スプラッター映画のソレだ。



小さく舌打ちをすると、攻撃してきた小太郎の腕を右足で挟み取る。
血に汚れた手裏剣は使えないと、間合いを詰めてきたのが敗因だ。
近距離戦は私の十八番。自慢の怪力と治癒力、素早ささえあれば小太郎一人の対処はしやすい。
仲間の忍は皆動けない状態だ。小太郎の持つ刀を二本とも奪い、折る。
小太郎の腕を足で押さえつけたまま、鍵を開けた。
そのまま肩で門を押せば、重厚的な門はいとも簡単に招き入れてくれた。



だが、思いもよらない攻撃が襲い掛かってきた。
突然視界を光が覆う。些細な光かもしれないが、夜目に慣れすぎた目には刺激が強い。


しまった。


といっても化け物の私に命の危機など訪れない。
危ないのは小太郎だ。急いで足を外すと、そのまま遠くへ蹴り飛ばす。


次の瞬間、耳をつんざくような爆撃音。
連続で爆撃音が五つほど轟いたあと、複数の悲鳴が巨大な爆音とともに散った。
着実に再生を続けていく体は、新たに肌を生成していく。右手首からの血は止まっていた。
炎で焼け付いた唇が回復するのを待ち、開く。からからに喉が乾燥していたが、叫ばずにいられなかった。



「五本槍見逃したぁあああああああ!!?」



さっきの五本槍だったよね!?
いきなり最終奥義なんて予想外だ。五本槍も傭兵だとは知っていたが、まさか北条にいるとは。
出会いと別れが同時にやってくる、ロマンチックではあるが物悲しい。

駆け寄って見ようかと思ったが、盾兵に囲まれ近づくことすら許されなかった。
私に盾なんて無意味だけどさ。
北条の爺ちゃんのお付きだった人が静かな声を震わせた。



「蒼依殿、どういうことですか?」

「どうもこうも、北条を見限ったんだって。分かったら爺ちゃんの首を差し出してよ」

「はいそうですか。と言える立場だとお思いですか」

「いんや、全く。でも私も引ける立場じゃないんだよね。
出来ればさっさと終わらせたいんだ、こんなこと」



鎌を一振りすると、盾が横に割れた。
その合間を潜り抜け、走る。五本槍が居たであろう場所は黒く抉れているのが見えた。

お付きの人が怒号を張り上げた。すぐに視線を真正面へと据える。
槍や刀を掻い潜り、兜の立派な武将を狙って鎧ごと蹴った。ひざの形にひび割れる鎧に、打ち込まれた蹴りに、武将は倒れた。
名のある武将を狙えば、大体統率は崩れる。予想通り兵は動揺してくれた。

だが、それ以上に私が動揺してしまう出来ごとが。
頬を撫ぜる感触。向こう側を映すほど透明感のあるヒトガタが睨んできた。


prev * 127/341 * next
+bookmark
| TOP | NOVEL | LIST |
「#学園」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -