漆
月に背を向け、じ、と見下ろす。
腕を組んだまま無表情を固く守る小太郎に、私は、本能的に危険を察知する。
才蔵が、危ない。
逃げろ、と口を開いた瞬間、小太郎が刀を抜いたのが見えた。
同時に才蔵が手を引く。
敵だと判断を下したのだろう。
才蔵の腕があった場所には刀が振り下ろされ、才蔵に引き寄せられた私は口を開けたまま刃先を目で追う。
遅れて袴に亀裂が入ったのに気づいた。
才蔵は私を突き飛ばすと、まっすぐに小太郎の懐目掛けて走っていった。
刀を篭手で受け流し、腹を蹴る。寸前で身を引いた小太郎だったが、鮮血が散った。
足にも何か仕込みがあったらしい。
しかし、腹を庇うことなく小太郎は身を倒すと、才蔵の足を狙う。
才蔵はすぐに気づき飛び上がったが、身を倒した瞬間放り投げられた手裏剣によって腕と背中に傷を負った。
顔をしかめつつも負傷した腕を振るい、無数のくないを飛ばす。
刀で全て叩き落とされるも次の瞬間に小太郎の背後に周り、更にくないを投げる。
だが小太郎は一際大きな手裏剣を投げ、くないを弾き落としつつ才蔵の首まで狙った。
くないの数が多かったため、軌道がずれ、才蔵の頬を掠めただけで済んだが。
無駄のない動き。
一切隙を見せない戦いに圧倒される。
これが、忍の闘い。
って感心してる場合じゃない!
このままじゃ絶対にどちらかが死んでしまう。
小太郎は今大怪我を負っているし、才蔵が伝説の忍相手に互角に戦っていられるのもそのおかげ。
どちらかが根負けして一瞬でも気を抜いた瞬間、首を落とされる。
忍の武器には毒が塗ってある。
どちらも傷を負っている今、互いの毒が身体を蝕んでいる。
そんな消耗戦続けさせるわけにはいかない。
「おい、やめ……っ!?」
止めようと一歩踏み出した瞬間刃が降ってきた。
くないと忍者刀が足を縫いとめる。
「邪魔するな」
「……」
容赦ねぇえええええ!!
え、これって私が悪いの!?
つか普通は近づいたら怪我するぞ、とか言うとこだろ!
なんで私怪我させられる立場になってんの!?
あふれ出る血を無視し、くないと刀を引き抜くが、倍の刃が足を貫いた。
今日、どんだけ足を重点的に怪我するの私。
骨折したり、刺されたり。あちゃー、完全に風穴空いちゃってるよ。
声をかけるが、全くもって応じる気配がない。
説得しても、怒っても、愛の言葉を囁いても。
二人とも無表情。無反応。完全無視。
これ以上ネタないよ。
じゃなくて、打つ手が見つからないよ。
こうなりゃやけくそだ。
「蒼依黒兎、脱ぎます!!」