拾肆
熱い。
痛い。
痒い。
臭い。
“我慢”の対象なんだろうが、想像以上の苦痛だ。
体勢を変えようと微かに体を動かしただけで身体中に痛みの信号が伝わる。
肉が焦げた臭い、いや炭に近いか。聞くと炭化してるらしい。
……聞かなきゃ良かった。
洒落にならないぐらい痛いよ!
想像を絶する痛み。正直我慢するしないとかのレベルじゃない!
あの後かすがによって城に連れてってもらい、現在進行形で直江に看病されている。
……なんでやねん。
謙信さんやかすがは忙しいから無理だとしても、女中さんがいるじゃんか!
あまり知られたくない存在だし、怪我の具合が酷すぎるからしょうがないんだけどさ。
大丈夫か、痛くないか、何が欲しいか、優しいのは嬉しい。
しかし身体を拭こうとして力を込めるのはやめてほしい。
「っつぅ〜〜!」
「痛むのか?」
「力加減ぐらいしろ、馬鹿っ」
「だが血が固まってるから力を入れないと綺麗にならないぞ」
「じゃあ治ってから拭く」
「いつになると思ってるんだ!」
どうせ化け物なんだから、すぐに治る。そう答えそうになる口をつぐみ、直江を見る。
今の医術じゃ完治することのない傷。医者に診てもらうのは絶対に嫌だから無理言って寝かせてもらってる。
自然に喋れるようになったってことは少しずつだけど治ってる証拠。
試しに舌で口内を探ると傷はない。喉が渇いているが火傷のせいだろう。
直江に何度か水を含ませた布を口に入れてもらったのに、喉は潤わない。
甲斐甲斐しく世話をしてくれる直江の横顔を見ながら呟いた。
「直江ってさ、暇人?」
「失礼な! 俺はいつも大忙しだ!」
「じゃあ何で私の相手してんの?」
「愛と義の為だ」
戦国ゲーム繋がりだけど違う直江だ!!
胸を張って堂々と言うなよ。
叫んだら傷に響くんだって。ツッコみたくなるようなことを言わないでほしい。
「少し寝る。直江も休んでいいよ」
目を伏せたら、布が擦れる音がした。柔らかくて薄い布をかけられる。
朝になったらまた来る、と言い残し、部屋から出た。
遠ざかる足音に、お疲れ様と小さな声で言っておいた。
おやすみなさい。
身体中を巡る痛みより疲れが勝ったらしく、すぐに意識が落ちていくのを感じた。