「予想していた通り。寧ろ予想が当たりすぎて正直驚くな」

「貴殿は全て分かっていたのか」

「一応」



智に優れているとは天晴れ! 俺には敵わないけどな。
とどこから出てくるか問いただしたい自信は置いといて。
直江の話を一通り聞いた私は、一先ず整理することにした。


上杉は私を剣として使う気だ。戦に人生すらも投資するような人なのに何故私の力を借りたいと考えたのか。
それは戦とは呼ぶには力不足。しかし喧嘩と甘んじるには役不足なものがあるから。

百姓一揆。

上杉相手に一揆を考えるなんて無謀だ。農民でも軍神上杉謙信の噂は聞いてるだろうに。
だが、それでも武器を取ったのだから此方としてもそれなりの覚悟で向かわねばいけない。
織田を倒すべく立ち上がった農民。それらを束ねる一人の少女。
伊達が武田と同盟を組んだのを聞いて、残った通り道を選んだのだ。

私のせいで軍神と交えることになった。
そして今、私の手によって絶望がばらまかれる。

「黒兎! と、直江。お前と一緒にいたのか」



かすがだ。
必死に追いかけたらしく、少し呼吸が乱れている。
落ち着けるようには、と小さく息を切らしたかすがは直江を一瞥するだけ。
だがそれに気づいてないのか直江は嬉しそうに声を上げた。



「荷物は無敵の俺がしっかりと守りとおしたぞ!」

「そうか。黒兎、謙信様はすぐにでも動いて欲しいとおっしゃっている。
動けるか?」

「ん、大丈夫。それよりも直江のことなんだけど」

「どうした。何か問題でも起こしたか? 直江、切腹だ」

「えぇえええ!! 俺無敵なのに切腹?!」




直江……っ!
うざいけど凄い不憫!!
ちょっと武田での私と佐助の関係に近いものを感じたよ。
いや、んなことないよね。うん、私の気のせい。
だって私、佐助に愛されてるもの。大丈夫大丈夫。



「愛ゆえにか!」

「直江ぇええええ!! 自重! お前自重しろ!!
冗談は兜だけにしろよ!!」



私とキャラ被りすんなよ、畜生!!
ツンデレかすがは萌えるけど、どうみてもデレが一ミリもないよ!!
今回私ボケてないし! 直江お前どんだけボケに徹したいんだ!!



「黒兎、行くぞ」

「え、直江は?」

「帰れ」

「俺も戦おう!」

「「やめろ、足手まといな上邪魔だ」」



あ、声揃った。
酷いとは思ったが、訂正する気もない。
死にたいのなら分かるが何のために私についてくるんだ。
ひしゃげた兜が不安定に揺れる。

弱いものが死ぬ。
誰だって分かっている、それが道理だ。

分かっているから無敵だと虚勢を張るのかもしれないが。



「かすが、私からは触れないから適当に引っつかんで運んでくれない?
ついたらそこら辺に落としてくれればいいから。かすがはそのまま逃げて」

「……分かった」



横で喚く直江を見やることもなく、かすがは私に荷を担がせた。
布で留められた荷物を確認することも出来ず、腰に手を回される。
あー、すっげー抱きつきたい。せりあがってくる欲望を必死でとどめるが、その度に負けそうになる。
きっと誰だってぼんきゅっぼんに抱きつきたいって思ってるって!

高く飛び上がったかすがは上に待機させておいた凧に乗り込んだ。
凧の方向調整するかすがの顔は俯いている所為でよく見えない。
仕方がなく回り込んで顔を覗きみた。驚いたように眉を顰め、眉間に何本も皺を刻むかすが。
綺麗な顔なのにもったいない。

でも私にはその皺を伸ばすことは出来ないし、ほぐす術を知らなかった。



「謙信さんに言われたんだろ。謙信さんが無事なんだからいいじゃん」

「お前は……っ、それでいいのか!」

「かすがは謙信さんを護る。その為に戦ってるんだろう。
今回は私が戦う。かすがも謙信さんも死なない。手も汚さない。
理想的じゃないか」

「私には何故お前が笑っていられるのか分からない!
黒兎は何のために戦っているんだ!?」

「自分の、為だよ」



微笑むとかすがは酷く苦しそうに顔を歪めた。
私は、表情をほぐす術を、知らない。



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