「上杉、謙信が……来る?」

「そうじゃ」



お館様に一人で遠征に行ってもいいか尋ねたまでは良かったが、
返ってきたのは思いもしなかった答えだった。
驚いているのは私だけではないらしく、忍である佐助や才蔵も一瞬目を見開き、表情を露にした。
幸村は隠す気すらないようで、ぽかんと口を開けている。



「謙信から文が来た。同盟を組みたいとのことじゃ」

「……お館様、その文読ませて」



お館様は戸惑うことも無く、文を渡してくれた。
真っ白く、上品な紙は高級感溢れ、上杉謙信らしい。
開くと、綺麗な文字で同盟の意思を表した文が綴られていた。



「やっぱり、か」

「何がやっぱりなのでござるか?」

「全部ひらがなだ!」

「黒兎殿、それを確かめたくて文を!?」

「それ以外になにがあるんだ!」

「……無いでござるな」

「だろ?」

「いやいや、あるでしょ!? 上杉が自分に有利なように同盟を進めようとしてるんじゃないかとか。
同盟以外の考えがあって来ようとしてるんじゃないかとか。
上杉以外の人間が書いたんじゃないかとか!」

「そんな佐助ほど後ろ向きに考えてないでござる」

「そうだよ、佐助。もっと前向きに考えようよ」



そうだった、こいつら馬鹿だった! と失礼な叫びをあげている佐助は置いといて。
上杉の方から同盟を組みにくるというのは考えもしなかった。
佐助の言うとおり裏がありそうだが、その裏に何があるか全くもって予想できない。


それにかすが。
目的は私みたいだが、私を連れて行ってどうする?
いくら力があろうとそれを簡単に手懐けられるとは思っていないはず。
それにお館様が人質になるような玉でもないし。
私を利用する手段を見つけているのか、それほどまでに化け物が必要な厄介事を抱え込んでいるのか。



「そういえば、さっき……」

「どうした?」

「佐助とかすがは私が来なかったらどうなってたんだろ」

「……」

「実はあのまま18禁的な状況に陥ってたんだとしたら、
あのまま声を掛けずに覗いておけばよかった!」

「そっちか!!」


男性向け小説になっちゃうから、描写はせずに私の悶えだけで伝えるからさ!
うわ、え、そんなことまでするの!? って感じで!
そこらへんの配慮はちゃんとしておかないとね。
空気を読む子さ、私は。


「一週間後には到着するらしい。黒兎、粗相のないように頼んだぞ」

「おうよ、嫁に恥は欠かせないよ!」

「うわー、俺様もう胃が痛くなってきた」

「某、心配で黒兎殿をどっかに縄でつないでおこうかと」

「幸村様、縄ならここにございます」

「お前ら失礼だな! つか才蔵もちゃっかり現れて、縄に繋ごうとするな!!」



もうちょっと信用してくれよ!



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