荷物、なーし。
お金、なーし。
武器、私自身。



「よし、準備万端!」

「どこがだ」

「うぉおおい、気配も無くつっこむなよ! ちょっと吃驚したじゃんか!」



体質が体質だから、基本荷物無しでもいいんだよ。
なんて言える訳も無く。
背後に立つ才蔵に気づけなかった私は、ばくばくと音を立てそうな心臓を押さえつけた。
悲しいぐらい酷く静かな心臓があったけど。


「あ、才蔵。私、これからお出かけしてくるから」

「なら俺もついていく」

「……今度の戦いは厳し「今回は俺様がついていく」

「長?!」


驚く才蔵の後ろには佐助。
というか二話連続で私の台詞を遮るってどういうことだ。
格好よく決めようと思っていたのに。


「前回も佐助来たじゃん。もしかして嫁として旦那様についてきたいと!?」

「黒兎、上杉のところ行く気でしょ?」


あっちゃー、バレてらー。


佐助の言うとおり、私は上杉に行こうと考えていた。
かすがの言い振りからして、目的は私。
そして佐助が誤魔化すところを見る限り、私の力やら何やらが外部に漏れている可能性がある。


ふっ、私のために争わないで! って叫ぶ準備も万端さ。
私自身がモテモテというより、私の力がモテモテなのが辛いところだ。


って、あれ?



「私が上杉に行くこと反対しないの?」

「反対して止める気あんの?」

「いんや、全く」

「俺様らが無理やり止めようとしたらそれこそ強引にでも行こうとするでしょーが。
だから、今度は俺がついていくよ」

「……嫌だ」

「は?」

「佐助も、才蔵も。着いてくるな。
私一人で行かせてもらう」


勝手なことを、と不機嫌になる佐助と才蔵。しかし私は意見を変えるつもりは無い。
今回の件も前回、前々回同様。目的は同盟を組むことだ。

ただ、今回の相手は上杉謙信。
忍びの多い場所では気配を読むことが出来ない私はかなり不利。
しかも相手は私を狙っているとなれば一緒にいる人を人質にするかもしれない。
上杉謙信がそんな真似をするわけない、とは思いたいけど……あの人何を考えてるか分かんないんだよなー。


「いくら私でも、そんな馬鹿じゃないんでね。
それに……、私は武田の兵じゃない。ただの、歩き神子だよ」


自分に言い聞かせるように、呟く。
武田の兵だと広まれば広まるほど、動きづらくなる。
だからこその発言だった。


「黒兎殿は武田の者じゃないでござるのか……」

「また覗いてたのかよ!! そんな捨てられた子犬みたいな目するなって!!」

「こらっ、幸村様に向かってなんて口の利き方をしてるんだ!」

「うわぁあああ、才蔵までさり気無く寂しそうな目してる!?
ごめん、ごめんってば! 私が悪かった!」


上杉に行ける空気じゃなくなったじゃんか!


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