弐
佐助の姿が見えない。
幸村が団子を頬張りながら零した(ついでに団子の欠片も)。
廊下を拭いた雑巾で幸村の顔を拭うと、更に汚れてしまったが気にしない。
元が良いから丁度いいぐらいだよ。多分。
私も幸村につられて首を動かし佐助の姿を探すが、全く見当たらない。
いつもなら幸村の過食を咎めたりしているのに。
おかげで幸村の横に重ねられた皿はいつもの倍以上ある。
しかも一種類だけ、あんこの乗った甘そうな団子だけでだ。
あー、見てるだけで胸焼けしそう。
甘いものは嫌いじゃないが、そんな食べられるもんじゃない。
誤魔化すように茶を啜るが相変わらず味覚も温度も感じなかった。
とりあえずこの場から離れよう。
いくら味覚も嗅覚もないとしても、視界に入るだけで胃もたれしそうな光景だ。
その場から逃げるように、私は佐助を探しに行くことにした。
……発見。
かなり森の奥深くまで来てしまって、戻る道すら分からなくなってきたところで、聞き覚えのある怒鳴り声が聞こえた。
それを辿ってきたのだが、思った通りの収穫があった。
佐助とかすが。
応援している組み合わせだから、興奮してしまった。
感覚があれば昂揚して、顔が熱くなりそう。
二人が気づいていないのを良いことに私は携帯を取り出し、カメラに切り替えた。
「佐かすゲーット!」
画素数の一番高い携帯のおかげで、綺麗な写真が撮れた。
直ぐに保存すると、二枚目へと移る。
だが、二人の顔が脱力し、呆れていることに気づき手を下ろす
わけがない!
脱力した顔も携帯に残しとかないと!
静寂の中電子音だけが鳴り響く。
そして私の心と携帯のデータが満たされるのを感じた。
「ほら、どうぞ続きやっちゃっていいよ!
抱き合おうが、接吻だろうが、それ以上だってバッチコイ!!
見られてると燃えるっていうしさ!」
「俺様の殺意だけがメラメラと燃え上がってるよ」
「敵軍にわざわざ逢引しに来るなんて、かすがやっるー。
幼馴染という近しい存在が恋愛対象ってベタだけどたまんない展開だよね。
立場は違えど想い合っている。ウッハー、お熱いこった」
「な、勘違いするな! 私は好きでこいつと二人っきりでいるんじゃない!
って何故私の名を!?」
「細かいことは気にしちゃ駄目だよ。
まぁ、一つ言わせてもらえるなら「去れ」
一つぐらい言わせてくれたっていいじゃんか!
目での訴えが届いたのか、さっきまで思う存分喋ってたでしょうが、ともっともなツッコミが返ってきた。
ごもっともすぎて言い返せない。
「神子、大人しく上杉まで来てもらうぞ」
「了解!」
「え、あ、いいのか?」
「その胸を揉ませてくれるなら」
「もっ、も……!?」
顔を真っ赤にする純情かすがにニヤニヤしつつ、私は佐助の肩を叩いた。
当然佐助の口元も緩んでいる。
「佐助、お前も男なら揉みたいだろ?」
「そりゃまぁ。黒兎の見てて悲しくなる胸よりは」
「悲しくなる!? え、私そこまで酷いの!?
一応言っとくけど、さらしのせいでぺったんこに見えるだけだから!」
「かすが、迷ってんなら俺様が揉んであげよーか?」
「まさかのスルー?」
「今日は引き上げる!! 黒兎、今度会った時には容赦しないぞ!」
私らのセクハラに耐えられなくなったのか、純情かすがは赤面のままどこかへと消えてしまった。
涙目になって、可哀想に。
当然その姿も携帯に残させてもらったけど。
「そういえば佐助。結局かすがは何しに来たんだ」
「……さぁ?」