進め進め 振り向くな
迷いなど捨てろ
そなたらには神がついている

舞うように
花のように
雪のように
今を美しく生きればいい


神はいつも私達を見守っている
だから安心して

逝きましょう









縁側で茶を啜り、暖かい日差しに微睡む。
最近は急いてばかりだった。
のんびりとした時間というのも偶にはいいかもしれない。
ゆったりと、ゆっくりと。流れゆく雲の行方を目で追うと、迷彩がそれを遮った。

休憩は終わり。
お仕事の時間だ。



「黒兎、仕事だよ。今日は俺様と」


下手くそな笑顔を貼り付けて、橙の髪を揺らす。
対抗するように上手に笑ってみせた。


迷彩に導かれるまま半刻。
迷彩は森に紛れるのを拒むように喋り続ける。こちらは小さく相づちを打つだけ。
森の奥の奥。ようやく歩くのを止めた。

否、止めさせた。

嘘は終わり。
嘘も終わり。


口端を吊り上げ、低く笑う。



「佐助のフリはもう止めたら? かすが」


びくりと体を強張らせる、かすが。
睨みつけるように振り向くと、ため息の後変化を解いた。
靡く金色の糸。凛とした目。体の線を際立たせた忍び装束。



「何故……、なんて聞かないよな」


そう尋ねれば向けられるのは嫌悪の目。
かすがは憎々しげに口を開いた。



「猿飛、佐助」



闇が体を包み込む。
正解、と笑って変化を解くと瞳が更に鋭くなった。



「かすががわざわざ俺様の姿になるとは、なぁ?」

「貴様に変化など一生したくなかったのに……っ」


よっぽど屈辱らしい。
顔を伏せ、吐き捨てるかすがに淡々と、表面的な笑顔を浮かべた。



「姿も声も、喋り方も完璧。けど、俺様はそんな笑い方下手じゃないから」

「そんなヘラヘラとふざけた笑い方など真似出来るか!」

「それよりも……、黒兎に何の用?」


笑顔を無表情に変える。
その瞬間、かすがに怯えが見えた。すぐに気丈を振る舞うが、声が震えている。
里に帰ろうよ。お前は忍に向いていない。
意固地な彼女には届かない言葉を、心の中で囁く。


「理由? 考えずとも分かるはずだ。死なない神子、しかも強大な力を持っている」


やはり、か。
黒兎の力は忠勝並みに欲される存在。
だからこそ俺に化けた忍びが侵入したと聞いて、すぐに黒兎が目的だと理解した。
そしてそれがかすがであることも。

口封じに殺すか、
大人しく帰らせるか。
黒兎を連れていかせるわけにはいかないし。

腰元にぶら下げた手裏剣に手を当てると、かすがも同じ様にくないを手に取った。
緊迫した空気。どちらが先に動くか、一瞬の気の緩みが死に繋がる。


それをぶち壊す間抜けな声。


「佐かす、ゲーット!」


ピロリーンとからくりの立てる音に酷い脱力感を感じたのはかすがも同じようだ。
つーか俺様が黒兎に変化してまでかすがをおびき寄せた意味無いじゃねーか!



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