参拾壱
あまり長い時間眺めてても電池の無駄だな。
電源ボタンに親指を伸ばすと、引き止めるように携帯が震えた。
画面に映るは着信の知らせ。友人の名前がそこにあった。
さっきまで圏外と表示されていた筈なのに三本ともアンテナが立ってるし、まさか、本当に、まさか……。
動揺して変に力みそうだ。携帯を握り潰してしまわぬよう恐る恐るボタンを押した。
「ぅわあああぁあぁあああ!?」
ちょ、え、嘘だろ!?
自分の思いがけぬ行動に叫び声を上げてしまった。この際近くで体を小動物のようにちぢこませた家康の可愛さは問題じゃない。
間違えて電源ボタンを押した
なんて失態をどうカバーするかが問題だ。
かけなおそうにも既に携帯は圏外。再びかかってくるのを待つしか無いらしい。
「ワン、モア、チャーンス!
神様仏様お館様様々、どうかもう一度着信をー!!」
「必死だな」
「当たり前田のニートだよ、才蔵!」
「前田の新居と?」
「新居って誰?」
真面目に返す才蔵に私よりも素早く佐助が突っ込んだ。自分でもなかなかに寒いギャグだと思ったがこうも反応してくれると嬉しいな。
なんて和んでると再度携帯が震えた。
期待を込め携帯を開いたが着信では無かった。
「メール?」
宛先はなし。
そんなことってあるのか?
疑問符を浮かべつつ、メールを開く。
【件名:
本文:
チャンスはやらん( ´_ゝ`)ノ 馬鹿め】
「ぐぁあああ、顔文字ムカつく!!」
神様(仮)ケチだな! しかも顔文字使うとか予想外だよ!
驚いた通り越して苛つくわ!!
思わず携帯地面に投げつけそうになったよ。直してもらったばかりなのに。
私の怒声に忠勝が一番驚き、家康を落としそうになるという場面を見たお陰で苛立ちは収まったが。
「何かあったのか?」
「何かはあったけど、私の問題だし。
あ、同盟組んでくれて助かった。ありがとう」
「いや、こっちこそ助かったぞ。武田と同盟を組んだとあればそれだけで無益な争いをせずに済む」
強い光を宿した眼に国を背負う者の強かさを垣間見た。
お館様や政宗、家康。国というたくさんの命を背負った人はこんなにも強い。そしてそれを支える人も。
私には到底真似できない強さ。
私は自分の為にしか戦えないから。死ぬのは怖いし、失うのも怖い。
だから、殺す。自分が死ぬぐらいなら、殺す。……と思う。
「死ぬなよ、家康」
「お前もな、黒兎」
「忠勝、私の嫁になってくれたら戦国最強夫婦になれるよ!」
「……!?」
「……そうだな忠勝。黒兎も忠勝を見習え!」
「え、なんて言われたの!?
主従意思疎通はいいけど、私分からないからな!?」
「忠勝の言葉も理解出来ず娶ろうなど、笑止千万!
黒兎もまだまだっうわ!」
「家康もまだまだだな!」
着物越しに腹を撫でただけで初な奴。
真っ赤になって睨んできたがそんなもの怖くもなんともない。
私を除け者にした罰さ!
才蔵から破廉恥な行為を慎めとお叱りの言葉と拳骨を頂戴したが。
「では帰るかの」
「黒兎、ばいばい」
「佐助冷たい! 一緒に行くってば!」
「失礼した」
「あ、一寸待って!」
携帯を開き家康と忠勝の写メを撮った。
キョトンとした家康と、何を考えているのか分からない忠勝。
シャッター音と共に場面だけが切り取られる。
「家康、お前なら平和な世を作れるよ」
呟くように言うと当然だと笑い返された。
徳川家康が世を治めれば暫くは安泰な時代が訪れる。それは誰もが知っている歴史。
だがここは創作された歴史の中。忠実とはかなり違う。
……私には関係ない話だけど。
国を背負う者に
それを守護する者に
平和を切に願う者に
幸あれ
武田に戻ると隠した筈の破れた着物が見つかってた私にも幸あれ
続