半だるま権現と
布団に寝そべった家康は額にかかった髪が鬱陶しいのか、何度となく頭を振る。手で払おうにも手がない。
足だけでも起きあがったり、食事は出来るようになったが、ふとした拍子に出来ないことが増えていることに気づいてしまう。
今日はまだ開いていない襖を見つめていると、隙間が現れ、人が通れる程広くなった。
家康の目が輝く。
「ごめんね、遅くなっちゃって」
乱れた衣類。仄かに赤らむ顔。首筋についた歯形。
三成が離さなかったのか。すっかり歪んだ思考は現状を有りの儘に受け止める。
なまえは肩に縫い止めた家康の手で、家康の前髪を払った。
すっきりした額に口づけを落とされ、家康は生娘のように頬に朱を落とした。
かぷかぷと唇に甘噛みし、お互いに笑い合う。
三成がつけた歯形の上へ家康も牙を立てた。なまえの眉が寄る。
家康の口内に流れ込んだ血は直接脳をしびれさせた。
すまない。と、反省など微塵も見えない恍惚とした表情で謝罪するのは何も今日が初めてではない。毎度のことだ。
自虐趣味はないが、なまえに拒絶は出来ない。
なまえが家康の腕、三成の脚を貰う代わりに交わした条件。
慈しむ部位のない二人と愛し合うことだった。