遊郭潜入
※BSRキャラが出てきてません。




襖越しの嬌声。水音。肌と肌が重なる音。
耳を塞いでも鋭い聴覚は漏らすことなく音を吸収していく。
遊郭に潜入したまでは良かったが、予想以上の18禁っぷりにげんなりする。
経験はなくとも様々な媒体で知識は耳に入る未来。
言葉が何を求めているのか、音が何を意味するのか。
赤面物の現実が隣で胡座をかいていた。

前戯から本番、サービスにより細かく価格が分けられている事を姉さん女郎から教えてもらう。
前戯ぐらいなら、と勧められるが、丁重にはっきりと断らせて頂いた。
セクハラは楽しいけど、それとこれとは別だ。

巨大な座敷牢を思わせる木製の柵から白粉を塗った手が艶やかに男を誘う。
遊女は自分が売り物だと現実を知りながら、絶望を表に出さない。
紅が笑みを描き、男を魅了する。

多分男はこんな女を抱きたがる。
遊郭に来て数日、遊女の振る舞いを見ながら思った。
気高く、上品で、優美。器量良し、愛嬌良し。そして床上手。

素人臭さが抜けないなんちゃって遊女に適う相手ではない。

姉さん女郎について、お客様の酒を準備していると、不意に背中を撫でられた。
酔ったおっさんの品定めするような不躾な視線に一瞬眉を寄せる。
危ない。無意識に拳握ってた。



「あんた背中ええなぁ。なぁこの子いくらなん」

「水揚げがまだやさかい、うちで堪忍してぇな。ほら、うちの背中もなかなかやろ」

「未通女(おとめ)? なら俺に任せてちょーだいよ」



無遠慮にも程があるだろ!
立派に蓄えた髭を一本だけ残して抜くぞ、こんにゃろう。
廓出たら闇討ちしてやろう。今決めた。

心の声が聞こえたのだろうか、苦笑いを零し、姉さん女郎の手が宥めるように私の手に被さる。



「ごめんなぁ。この子は慶ちゃんにお願いしようと思ってるから」

「そーなん? ならしゃーないなぁ」



慶次グッジョブ!
お前の名前使えるな! 誉めてつかわす。
厭らしい視線をチロリとこちらに向け、姉さん女郎と閨に消えたおっさんを恭しく見送る。
ったく、おっさん反省しないな。

姉さん女郎に免じて、おっさんのヒゲは半分残して引きちぎった。






闇討ちダメ、絶対。
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