宿題を学校に忘れた私と、部活が終わって同じく忘れ物をしたらしいブン太と、教室でかち合った。

互いの席は斜め隣の関係で、机の中のプリント探しながら、なんとなく話しかけた。


「ブン太ってさ、いいお父さんになりそうだよね」

「……どうした、藪から棒に」


私たちは決して特別な仲ではない。ちょっと仲がいいくらいの、ただのクラスメートである。

プリントを鞄にしまってブン太に向き直って椅子に座った。


「先日、彼氏と別れまして」

「へえ彼氏いたんだ。んで?」


長くなると判断したのか、ブン太も私の真ん前に椅子を持ってきて座る。

なんかやけに近くない?
と思ったけど、構わず話を続ける。


「その理由としましては、私と彼の価値観の違いというやつでして」

「ふぅん、どういう違い?」

「恋する女の子という生き物は、いや、もしかしたら私だけかもしれないけど、男の子と付き合うと、その彼と結婚した時のことを考えてしまうのですよ」

「随分飛躍してんのな」

「私だってそれは自覚してるよ。でも夢みちゃうわけですよ」

「へいへい」

「で、その話をしたら、彼にも『まだ俺たち学生だろ』て言われました。でも、それだけならよかった」

「元カレはなんて?」

「『付き合ったら結婚までって、なに婚活中の行き遅れババァみてーなこと考えてんの』だって。夢みがちなガキみたいだったらまだ許せた。けど付き合ってる彼女に『ババァ』はないでしょ。『若いうちは適当に彼女作って、時期が来たら家庭的な女見つけて結婚すればいい』とか、調子のいいこと抜かしやがって、そんな上手くいくわけねーだろ。お前が行き遅れるに決まってるだろうが」

「文句があるのはわかったから落ち着け。どうどう」

「馬じゃないよ豚」

「豚じゃねーよ馬鹿」

「むむ……」

「そこ否定しねーのかよ。で、『俺がいいお父さんになりそう』ってのと何の関係があるんだよ」



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