私が初めてイギリスに行った時の事だ。
私と私の両親は出かけ先でエレベーターを待っていた。
私たち家族の前には別の家族が待っていた。
エレベーターが来て、前の家族のお母さんがまず乗った。
ところが、お父さんと男の子は乗らず、少し横に避けた。
お父さんはエレベーターの開くボタンを押しているのでわかるのだが、男の子が乗らない理由がわからない。
不思議に思う私と、いつまでも動かない私を不思議そうに見ている男の子。
綺麗な青い瞳をしていた。
当時、私は八歳。男の子は五歳くらい。
英語がわからなかった私は手振りで「早く乗りなよ」と男の子を促した。
すると男の子が、綺麗な青い瞳に涙を溜めて、彼のお父さんを見上げる。
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今度は私のお父さんが「早く乗ってあげなさい。でないとその子が乗れないから」と私の背を押す。
??
私と私のお母さんが乗って、ようやく安心したように男の子がエレベーターに乗った。
後になってお父さんから教えてもらったが、ヨーロッパ諸国にはレディファーストという文化があり、女性を先に通してあげるのがマナーだとか。
あのちびっこも一丁前に紳士だったのだ。
あれから十年近く経って、日本。
エレベーターを待っている。
あの時と違うのは両親がいないことと、私が制服を着ていること。
前で待つのは家族連れではなく、同じく氷帝学園の制服を着た男子がひとり。
エレベーターが来て、前で待っていた男子は横に避けた。
早く乗れと言わんばかりの、青い瞳。
私は微笑みを返して先に乗った。
「ありがとう、ちびっこ紳士」
「その話を蒸し返すな」
また手振りで先に乗るよう促したなら、まだ彼は涙目になるのだろうか?
今の景吾にやると、後が怖いからやらないけど。