彩花と雨丸の場合 「あ゛ー」 夏の暑い日、彩花は目の前の光景をほほえましそうに眺めていた。 彩花の目線の先では、自身の兄である雨丸が目の前の扇風機で楽しそうに遊んでいる。 「彩花っ彩花っ!凄いよこれ!」 「めぇは扇風機が気に入った?」 そんなものは表情を見れば明らかなのだが、聞かずにはいられない。 最初に見たときは何だこれ、と思ったのだが使ってみればなかなか良い品だ。 本来はクーラーがついていたのだが、夏の冷えは粘膜が炎症を起こす原因だと知り、即座に外した。 しかし扇風機ならエアサーキュレーターだと考えれば、それほど害は無いのではないかと思い今に至る。 「彩花っ、これなんであ゛ーってなるの?」 「めぇの声が扇風機の羽に当たって跳ね返って、空気が撹拌されてるから声の聞こえるタイミングがズレるからだよ」 彩花の説明に、雨丸は首を傾げた。 おそらくわかってないであろう雨丸に、彩花は笑みを深くした。 「……?」 「めぇ、そろそろおやすみの時間だよ」 訓練のせいで大分火照った体も冷めた頃を見計り、彩花は雨丸の毛布を持って近寄る。 いつまでも扇風機に興味津々な雨丸は、扇風機と毛布を少し交互に見た。 「これ、つけたままじゃだめ?」 「体に直接当てると体内の水分が蒸発するから、少し離して寝ようか」 雨丸がそう言うことも想定範囲内、何から何まで調査済みだ。 (めぇのことなら、何でもわかるんだ) ◆◇◆◇◆◇◆◇ 私もあ゛ーってなる理由は知りません。 彩花様は、夏の暑さなんて雨丸がいれば気にしないのでは…… [*prev] | [next#] (←) |