「蜜……−−」


蜜歌へと目を移した彼は、一瞬で戦慄した。

愉悦と享楽と悦楽が、筆で絵の具を掻き混ぜたかの如く混じり合い、不思議な感情の色を映す紫紺の瞳。蜜歌のその両眼はゆっくりと真音以外の人間を視界にいれ、やがて狂喜に歪む。


「あ……そ、ぼぉ?」

そして彼もまた、真音と同じように地を蹴った。


「蜜歌っ!」


それからの光景は無惨なものだった。
蜜歌によって“潰され”た人間達はかろうじて命は取り留めたものの、手足があらぬ方向へとへし曲がり、あちらこちらに夥しい量の血液が撒き散らされている。
それでもなお拳を振るう蜜歌の姿に、真音は目を奪われていた。

壮絶なまでに、美しかった。


血にまみれて笑う彼は、まるでこの世の者ではないかのような錯覚さえ与える。
それは“自制心”という名の“鎖”から解き放たれた蜜歌本来の姿。

「蜜歌、そこまでにしとけ」


汚れた血で彩られた蜜歌の指に自身のそれを絡ませ、真音は囁くように耳元に口を寄せる。
真音しか見ず、真音しか頼らず、真音だけを愛する子供のように無邪気な彼。

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