4 『開始十秒前、カウント五、四−−』 無機質な機械音声を聞きながら、真音は爪先を軽く弾ませながら体勢を整える。 近接訓練の場合、他の戦闘員候補生達との本気の潰し合いが主立った内容である。 つまり、真音にとっては“蜜歌に触られる前に全員潰す”という至極簡潔かつ単純な事でしかない。所詮ヴォルガーの訓練では彼等にとっては遊戯程度であり、例え他の人間が本気であろうともそれは瑣末な事。 真音の今の思考は、至ってシンプルだった。 彩花という存在が蜜歌の中から消えたことで、真音の中からも思考の疎外分子が消滅した。今の彼の頭には、“蜜歌と共に最強を目指す”という幼い頃に抱いた夢が存在するのみ。 「さっさと始末させてもらうぜ!」 ゼロカウントと同時に地を蹴り、一番近くにいた人間の首筋を狙って真音の足が弧を描く。 一人また一人と、まるで草木を薙ぎ倒すかのような淡々とした行動に、残っていた人間の中に恐怖が巣くう。 ちょうど十人目を殴り倒した真音は、何故か蜜歌の事が頭を過ぎり足を止めた。 彼の事を常に気にかけてはいたが、まるでモノクロの画面に天然色の映像がぽつんとあるような、そんな違和感を急に感じたのだ。 [*prev] | [next#] (←) |