“−−蜜歌は見た目こそ対した事ないけど、打ち所が悪かったみたいで”

「蜜歌?」

真音の呼び掛けにふ、と目を開けた蜜歌だが、彼の事を一瞥しただけでまた視線をよそに向けた。

“出血も多くて、心臓が少し止まったんだ”


(そういえば、今朝はまたあいつの事で喧嘩したんだっけ)

そっと、彼の肩に手をかける。
いつもならば、こちらが手をかける前に笑って“どうしたの”と聞いてくるはずだった。


“後遺症は残らないと思う……でも、海馬が結構ダメージ受けたみたいで”

不思議そうに見返してくる蜜歌に、真音はまるで確認するかのように呟いた。


「記憶、全部消えたんだろ?」

診断は、逆向性の全生活史健忘症。

精神的なダメージによるものが多いそれは、極稀に頭部のダメージにより発症することがある。
蜜歌は怪我のショックで、暴発より以前の全ての記憶を失ってしまった。


“−−蜜歌は、生まれたての赤ん坊と同じだと思っても良いと思う”

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