「何よ、邪魔しな……っ!!」


かがりの手を遠矢が、いさりを狼が押さえることで王太は解放されたが、遠矢の髪も黒だということを忘れていた。

案の定、訝しげに眉をしかめていたかがりの目が、有り得ないほど輝いている。


「黒髪ー!」

「う、わっ」


流石の遠矢でも、いきなり抱き着かれて驚いたのか若干上擦った声が上がる。


「やーん、ここ黒髪がいっぱいー!」

ハートが乱舞しそうな声だが、同時にライターを巡って無言の攻防も繰り広げている。
ピンクの雰囲気にどす黒い攻防のコラボは、まさにミスマッチだ。


しかし遠矢は少し逡巡すると、かがりに向かって口を開いた。


「職員室に行けば、もっといい黒髪がいますよ」
「えっ、ほんと!?」

「ええ、もうボクなんか足元にも及ばないような極上の黒髪です」


さりげなくライターを回収しながら、かがりに有ること無いこと吹き込む遠矢は意外とえげつない。


極上の黒髪に反応したのか、いさりの手を引っ張って職員に駆けていくかがりを尻目に、遠矢は落としてしまった鞄を手にとる。「遠矢……まさか黒髪というのは……」
「朧教頭も、これに懲りてスポーツカーで校門に突っ込んでくるのは止めて下さればいいのですが……」



ため息混じりに呟く遠矢に、怒らせてはいけない、と何となく悟った。

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