「彩花、瞼にちゅうは憧憬の意味なんだって!」

「……ん?」


顔を輝かせてリビングに出てきた雨丸に、彩花はしゃもじを持ったまましばし固まった。

何故、そのことをいきなり。


「ねえ彩花、聞いてる?」

「聞いてるけど、どこでそれを?」
「えーとね、この間氷魚が学校に来た時に番長に言ってた」

(ああ、やっぱりあの変態か)


予想通りの名前に内心青筋を立てながら、表面は平静を保つ。
雨丸の知らないことは、全部自分が教えたかったのに。


「ねえ彩花、額はどういう意味?」
「氷魚に聞かなかったの?」

「聞いた気もするけど、忘れちゃった」


悪気もなく笑う雨丸に、ならば良いかと思ってしまう。
氷魚に教えてもらった事を塗り変えるように、忘れられないよう最大限の愛を込めて。


「ここは、友情」

額に、小さくキス。

「憧憬、懇意」


瞼、頬にキスをしながら彩花は順に意味を口にする。

「ここは、愛情」


そう言って唇に口づけすると、雨丸は目に見えて嬉しそうな顔をした。

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