俺道

この世に生を受け、母の胎内にいた時から俺は忍だ。そうなることを決められた人間だ。物心ついた時には既に立派な忍。玩具は人を殺める道具、遊びは全て訓練。
感情を持たず、自分の意見を持たず、他人に関心を持たず、物に執着しない、なにも考えない。
唯一考えていいのは己の命を守ることと任務を完遂することのみ。

実につまらないが毎日が"生きてる"という実感のある人生。

当たり前に過ぎていた時はつい数時間前に崩れ去ってしまった。

俺はある家に永久的使えることになったのだ。確かに俺の住んでる里では12才になったらどこかの武家か公家に仕えるのが慣わしだが、今回は違った。
常識も古くからの慣習も一切通じない極道一家。

稀代の天才と呼ばれた俺が。押し付けられた形で好きでも嫌いでもない里を離れることとなり、人生初の不満を感じた。

新しい人生の幕明けだ。初めて主に仕える。主に仕えることで沢山の人生初体験することとなった。

「俺の守役?…お前が?……よろしく」

齢10と聞いた時点で人生初驚きしたのに、また驚いてしまった…
相当小さいし、無愛想、何より目付きが悪い。人を疑うような探るような目。自分と他人の距離を一定に保とうと近づけないようにしてるようだった。
―…実に気にくわない目付きだったのを記憶してる。


つまり第一印象は最悪だ。
今まで多数の仕事をこなしてきたが、永久的にこの糞餓鬼に仕えるのか…する仕事と言えば、生きてるのに死んでいるような目をしてる餓鬼の世話だ。日常生活の世話、仕事の手伝い、監視、暗殺から守る、教育等々…。

多すぎるような気はしてた…が給金をもらいやることだ。仕方ない…初めての仕事が嫌になった。他人には関心はないけど主には関心を持てるようになりたいし、あの態度と目付きをどうにかしてやりたい…と思ったのが運のつきだったのかもしれない。

主の態度というか性格が数日でだんだんとわかってきた。
見てくれはチビだが態度はかなりデカイ。品性なんて欠片どころか微塵もないし礼儀作法も知らない。我が儘で短気のやりたい放題。相手を気遣うなんてもってのほか。
…親の面見てみたいと思い見たがどちらも"親"ではなかったようだ。愛された事も無し、教育というか人間としての基本的な事すら教えられてない(俺も人の事言えた立場じゃなかったが…)

本当になんとかしなきゃいけないなという使命感にかられたが、他人に一片の関心を持ってなかった俺には人の世話なんてできるはずがなかった。どうしたらいいかわからずに、泣いたことすらあったくらいだ。
唯一の救いは同郷の忍が二人いたことだ。彼らには子供がいて子供の相手は慣れていたが、口うるさいためか嫌われたらしく困り果てていた。年の近い俺ならと色々と教えてくれたが、難しいことこの上なし。俺も一癖二癖ある面倒な人間だけど、主はもっと面倒だった。

さらに一緒にいて気づいたことは"賢い"餓鬼だということだ。普段はとんでもない悪童を演じ本性をひた隠しにして生きている。常に気を張り色々と隙を伺っているようにも見えた。10才にしてこの様なことを身に付けてるとは感服だけど、すで極道の道に生きている主には当たり前なのだろうか?
バカや普通では生きられない世界だから。

主が心を許してくれたのは一年後。主は徐々に変わり、俺はもっと変わった。

人に対して気遣いや優しさ、怒りや悲しみを持てるようになった。
一年もあれば人は成長できるんだと感心する。長年の普通はいつの間にか異常だと思えるようになるとは考えもしなかった。

さらに時は過ぎ人を愛する心ももてた。
屋敷の門前で震えていた子犬を拾い慈しんだ。心から笑い、冗談をいいケンカもした。他人への無関心も影を潜め互いに思いやることができる。人のために命を捨てるだなんて覚悟もできた。自分一人のみの人生だったが、もう一人きりのものではなくなり、抱えるものも多く重くなった。

あんなにチビだった主もいつの間にか俺より大きくなり、むしろ自分の方がチビになっていた。外見は変わっても根本は子供っぽいところだらけだが、極道として自分の身分を確立し腕を振るっている。軽い返事で俺まで盃をかわし、やっと人の道を歩み始めたのに再び全うな道を踏み外してしまったが…主が望んだことならば仕方ない。

ただし、刺青だけは背負わない。

大好きな温泉にはいりにくいからだ。

それでもいいと思えるようになった俺が今ここにいる。最近ではストレスで胃が痛くなることもしばしば。
主の女遊び、部下の強烈な個性、恋人の我が儘…まだまだたくさんあるが、これもまた人生。

必要とされる日々(本当か?)
心から笑い、泣き、怒り、照れる(怒が多いような。)
好きな人がいる(流されただけか?)
守りたい主がいる(たまに殺したくなる)
話題を共有できる友がいる(個性が強烈)

考えたこともない人生を送り、幕引きはまだまだ先がいい。初めて主に会った時の自分に今の自分を教えてあげたい。



ほら、また俺の名を呼んで騒いでいるヤツがいる。暇じゃないんだけどな…。つーか厠くらいゆっくりさせて欲しいんだけどね。俺の安らげる場所はここしかないんですが?

まぁそれもありなんだろうね。

生きた時間より余命の方がまだ長い。これからも色々なことを共有し、互いに思いやる成長できれば本望だ。

まだこのたのしい俺の道にが続くことを願いたい。


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風丸の歩み。主がは獅子丸。

結局まとまり切らなかったというf(^^;)


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