「できちゃったー」
「……はっ?」
フローリングに小さく正座した寿は丸く開いた目で俺をガン見。
ビックリしたように言ったつもりらしいが口から出た言葉はずいぶん単調なもんだった。
話があると言われ、何を聞いても驚かないぞと腰を据えていたはずの俺の飛び退きように比べたら、寿のびっくりの仕方なんて驚いているうちにも入らない。
待て何ができちゃったーだ、おかしいだろ、何がだよ、何がってアレか?
というかいつのだよそれ、つーかお前、
「ハァァ!? テメー毎回絶対安全日とかぬかしてなかったかオイ!」
「う…ん?」
「知らないふりしてんじゃねーよ! つかそれ相手本当に俺か!? お前適当だから怪し過ぎて全く信用ならねえ!」
「え、っと、タイミング的にはギリギリ前の彼と別れた後で、私が酔っ払って記憶のないうちに変なことしてなければ…あ、あと雷光に襲われそうになったこともあるけどあの時は確か未遂だったはずで、コウノトリが間違えて運んで来たんじゃなかったら多分90パーセントは和彦が」
「10パーセント残し過ぎだろうが! しかもお前今途中で何か聞き捨てならないこと言」
「和彦!!!」
「何だ!?」
「出来ちゃった婚しよう!!」
「……。ハァ!?」
え、何。それ目的?
そういえば前にこいつ働きたくないから将来は専業主婦するんだとか言っていたが、あれ本気だったのか?
そしてしかもそのイケニエがもしかしなくても俺?
俺なのか?
こういった時、どうにも男の方がうろたえがちだというのはどうやら本当らしい。
身体は固まってるが精神が部屋中を狼狽しているのが自分でもよくわかる。
正面の寿を見ているようで見ていない。
視線が定まらない。
目眩を起こしそうだ。
「だぁぁもう詐欺だ詐欺! 結婚詐欺」
「え、詐欺? 何? 誰が?」
「お前だよ! 分かった、今からお前に選択の余地を与えてやる! 俺と結婚するか入籍するか嫁に来るか同じ墓に入るか」
「え、えっ…と、じゃあお嫁に行こう、かな? 和彦、口調が怒ってるのに顔がものすごく笑っ」
その時俺は、思わず将来の女房を拳でぶっ飛ばして黙らせたのだった。
◆
「先輩! これでお二人は懇意ですね! おめでとうございます!」
「雷光てめぇぬけぬけと何しにき」
「先輩!!! 式はどうします? 近辺で行いますか? 神前結婚? それとも西洋式? ああでもそれだと雪見先輩は見事なほどに似合わないでしょうね。ある意味見応えのある結婚式になりますが。あ、なんだったら神主は私がお受けしますよ。神父役でももちろん構いませんが、あまりお勧めは」
「だ ま れ」
これで今度生まれて来る子供が雷光に激似だったら、俺はコイツを本気でぶっ殺そうと思う。