下校途中。
 家に遊びに来るかと虹一が聞いてきたから、行くと答えた。
 座ってと促すから、床に座った。
 たったこれだけのやり取りのどこに、私が彼に押し倒される要素があると言うの……?







『相性』







「どうぞ」
 運んで来てくれたお茶をテーブルに置きながら、虹一は自らも私の横に腰を下ろした。
 熱そうだな、と手を付けずにおいた私の隣で、平然とその湯気の立ちのぼる熱湯を口にした虹一が入れ物をテーブルに置いたと同時、そうすることがさも当然であるかのように覆いかぶさって来た彼に倒された私の視界が反転する。

「え? ちょ……っ」

 私の動揺も彼にとっては特に気にする所ではなく、倒れ込んだ勢いのまま虹一は私の首筋にキスを落とす。

「たんまたんま!」

 半ば叫ぶように声をあげると、どうやら私の意思を無視するつもりではないらしい彼は素直に私の言葉に応じ、行動を止めた。

「どうしたの?」

「どうしたもこうしたも……」

「やだ?」

「やだ、とかじゃなくて」

「じゃなくて?」

 キョトンと彼は私を見つめた。

「……怖い、よ」

「……え、っと。全然そんな風に見えないんだけど」

「…見せていいの?」

 一瞬の沈黙の後、緩めていた力をいっきに緊張させて、虹一を突き飛ばす勢いで身体を起き上がらせようとしたものの、片手で肩を押し戻された私は再び天井を仰いだ。
 華奢な身体からは想像もつかない力に身動き一つ出来ず、そんな私の瞳をさげずむように、でもどこかなまめかしさを含んだ表情で見下ろしたした彼は、ついでとでも言うように私の首筋に舌を這わせた。

「……っ」

「好き? こういうの」

「……は?」

 予想もしていなかった言葉とタイミングに、思考が止まる。
 虹一は普段学校で見せるような笑顔に戻りくすりと笑った。

「知ってる?こういうの好きな人の事ね、マゾって言うんだよ」

 ……何それ。
 それなら、

「……そういう状況に追い込ませる人のこと、サドって言うんだよ」

 私が自分の失言に気付いたのは、そう口にした直後のこと。

「そっか。なら問題ない、か」

「ちょ……っ」

 反論も、言葉を発する事さえ許さないように、虹一は私の唇を塞いだ。

「ん……っ」

「続きは?」

 抵抗は諾いの証。
 かぶさる身体を押し返そうと抗った私の両手を搦め捕った彼の顔は、酷く嬉しそうに笑っていた。




fin.
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