壁に叩き付けるように身体を抑えつけられ、覆いかぶさってくる上体に逃げる方向が奪われる。

 背中の痛みには宵風の容赦と余裕の無さが滲み、その中に優しさのかけらを探してはみたが、ひとつも見当たらなかった。

 ただ、彼の唇が思っていたよりも熱いことだけ、よくわかった。

 いつも寒そうに服を着込んで、それでも熱が足りないと言わんばかりにうずくまっているのが私の中にある宵風の印象だったから、きっと身体も冷たいんだなんて勝手に解釈していたのだけれど。

 壁に背中を打った衝撃で機能停止していた肺が酸素を求めるままに咳込むと、宵風は僅か唇を離す。

 どうでも良いことには手を出すことも出来ない、馬鹿気真面目くんのくせに。

 揶揄してやろうと思ったが、再び私にキスを落とす宵風の様子はどう考えても“どうでも良さそうな雰囲気”ではなかったから、私はそのまま、衝動的には激しくも拙さの残るそのキスを受け取った。

(うわ、舌入って来た)

 応えようとする私を無視し、縦横好き勝手に中をまさぐってはいるが、体力を最小限に抑えている宵風らしさがとても憎らしかった。

 理性なんてとっくにぶっ飛んでるくせに。

 私はもどかしさを解消するようにして、他人の感情からわざと逃げるように私の存在を顧みないその舌を思いきり絡めとってやった。

 いつも、棒きれでつつくだけで死んでしまいそうな危うさをまとっているくせに、こういう時はやっぱり男の子なんだなとしみじみその熱を味わう。

 首に腕を回して今度は私が彼の逃げ場を奪い、このままどこまで行くんだろうと考え始めたとき、宵風はまた、あっさりと私から離れてしまった。

 大人が一仕事終えた後に吐くような、短い溜息。

 積木の城を完成させた子供の昂揚とも言うことが出来るだろうか、そんな軽い締め括りを一息、宵風は私の中に残した。

 どっちにしろ、しでかした内容に反し、表情は無愛想極まりない。

 息が上がってしまい嫌味の一つも吐き付けることの出来ない自分の軟弱さと本能に情けない嘆息を吐く。

 同時に力入らず膝が折れた。

 精神とかみ合わない自身の身体に驚きを隠せず、恐らく私はその時とても情けない表情をしていただろう。

 宵風は腕を軽く支えてくれたけれど保たせることはせずに、私に合わせてにゆるゆると座り込み、しばらく唇を拭ってから、何故か不思議がり、熟考して、そしてまた唇を寄せて来た。

 しばらく二度目を堪能し、口を開いた。

「……わかった」

「何が」

 何を言われるのかと冷や汗滲ませながら恐る恐るその顔を窺う。

 余裕なかったはずの彼は私の余裕を奪い取っていて、少し眠たそうに、まるで抑揚無く言った。

「僕は、多分……寿が好き」

「……は?」

 他人ごとのようにポロリと言葉が零れ落ちる、その音を聞いた。

 どうでも良さそうに言うなと食ってかかろうとしたのは、眉一つ動かさない宵風が何となく笑ったような気がしたから忘れることにして、でも、あまりにすっとぼけた宵風の発言に、うっかりムードぶち壊しのデコピンを喰らわせていた。

 そんなの、





『最初に触れた時点で気付け』

fin.

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