ギシ、と、スプリングが軋んだ。

幅の無い寝台が、二人分の重みに耐え切れずに悲鳴を上げている。

いや、それも原因だろうが、無理な体勢で体重がかけられていることもまた、一つの要因だろう。

暗闇が寿の白い肢体を綺麗に浮かび上がらせる。

ベッドは、昔から好きではなかった。

寝心地悪く、腰に悪いだけだ。

寝覚も悪い。

未だに否定はしているものの、完全に全部屋和造りのあの生活から離れて五年も立てば、さすがにそのやわらかさにも慣れ始めていた。

違和感なく眠りにつけるかというのはともかく、今や情事の最中に相手の腕をどこに押さえ付けようが、どう重心を移動しようが、平均感覚を欠くようなことは無くなった。

そうなるまでに、一体、回数にしてどれほどその身体を掻き抱いたことか。

不安定に揺れる波のようなそこは、正直乗り心地が良いとは言えないが、女性的な滑らかな曲線をシーツに浮き出るモノクロの影が縁取る様子というのは案外美しいもので、床に浮き上がる女の体を艶やかに際立たせる和様式の寝具に負けず劣らぬ仕様だ。

西洋の技術とは上手く出来たものだと、少々その神経を疑った。

彼女の肌に絡み付く邪魔な布を剥ぎ取って、私の両手両足でその身体をシーツに縫い付ける。

どれだけ見下ろしても飽き足りない。

そんな私は、所謂、若干アブノーマルな趣向があるかもしれない。

しかし、下で身体をほてらせている寿も大して変わったものではないなと思う。

悪くない。


光沢を持った肌は悩まし過ぎるほどに悩ましい。

私自身、男女問わずに妖艶だと冷やかされたことは数知れないが、それでも寿のように扇情的にはなれないことを思えば、私はれっきとした男であるようだ。

誰彼構わず理性を掻き乱すことの無いよう、無意識に育てられた安全装置みたいなものかと思えば、笑いも込み上げるが。

それがなくとも私は、完全に欲情する側であって、される側になりたいとは思わない。

私には、無理矢理組み敷くくらいの方が性に合っている。

好かれていると油断させた後に居なくなられるよりも、縛りつけておく方が楽で、不安も焦りも少ない。

所々諦めの伺える寿の様子は、私を受け入れているようにすら見えたが、それを彼女の愛情だと言い切るような急いだ勇気は、私にはまだ無かった。

「羞恥というものは、感度をよくするとよく云うけれど」

無造作にその胸に言葉を落とすと、彼女の身体がビクンと反応した。

返事は無い。

「思えば、どこぞの宗教で、人の始まりと言われているあの夫婦の情事というのは、たいして楽しみの無いものだったのだろうね」

無宗教の私にしても、こればかりは禁断の果実に感謝すべきかも知れないと、馬鹿げているようで、見方に寄っては切実にも思える思考が巡った。

指で引っ掻き線を残す代わりに、目で撫でるようにねっとりとした痕をつける。

目には見えなくも、じりじり焼けるような熱が寿の肌に駆けているのは、ほてりを増し、浮き出る愛らしい胸元を目にすれば、触れずとも感じられることだ。

何かをしているわけでもないのに、寿の腰がなまめかしく浮いた。

「らい…こう…」

「……寿」

蒸気する身体があまりに美しく、私はつい、くすりと息を漏らした。

僅かに熱が帯びる。

「ねぇ、それは、やはり」

欲しい、のかい?



fin.