『選べない自由』






「宵風が居なくなったら、私も消えちゃおうかな」

「……そういう風に言えば僕が留まるとでも思ってる…?」

 彼は視線が交わるなり、やけに攻撃的な目を私に向けた。
 ……瞳の強さに反して力無い声が酷く痛々しかった。

「いいえ?」

「押し付けがましいのは嫌いだ」

「違うったら」

 ……嫌い?

 結構結構。

 今、いたずらに触れてみた指先、拒まれないだけで私は充分。

 それだけであと一週間くらいは幸せでいられそう。

 ふらりと立ち上がり、私から遠ざかって行く気配を背後に感じても、呼び止める言葉も理由も浮かばない自分の性格は損。

「行ってらっしゃい」

 何も答えない背中が扉の向こうへ消えて初めて気付く彼の残り香を抱きしめて、私は独りうずくまった。

「……帰って来たければ帰ってくればー?」

 そうするか、しないかは、貴方の自由。
 私はいつでも変わらずここにいて、それだけが貴方に出来る私の精一杯。
 自分の手の内にあったものがすり抜けていく寂しさなんて、始めから掴もうともしない貴方は知らないのでしょう。
 知らなくていい。
 私が勝手にそうなることを選んでいるだけだから。
 ……貴方の存在がそれを選択させているのだから、縛られているといえば縛られているのかな。
 だとしたら、貴方が消滅して初めて私は自由の身。
 けれどその自由になった意思できっと私は、貴方と共に消える運命を望むのでしょうね。
 貴方は周囲を拒んだ気になって、それで満足?
 気付いていないのかも知れないけれど、貴方は既にもう、

こんなにも愛されてるのよ。





fin.