優しくするな
 僕は何も還せないんだから
 優しくするな
 お願いだから……





『拒絶』






「ばっかみたい。本当は優しくして欲しいですって言ってるようにしか聞こえないんですけど」

 身体を起こす力も、顔を向ける力も、まぶたを開ける気力さえ無く雨に打たれたままでいた僕に降りかかって来た声。
 馴染みがあるような、ないような、けれど朦朧とした意識の中ではどちらでもよくて、僕はただ持ち主の知れぬ声に返事をした。

「…独り言だったのに」

「それは失礼しました」

 やわらかな体温が足元のあたりに腰を下ろした気配を感じた。
 居座るのか、と殺気立ててみても、その人がそれを気に止めた様子はなかった。
 降りしきる雨に打たれながら、顔を合わせることもしないで、僕らは何の意味があって共にいる?

「宵風?」

「…生きてる」

 そうじゃなくてと笑った声が、冷たい空気を揺らした気がした。

「ね、宵風。見返り要らないから…」

 ……好きでいさせよ

「……そういうの、返事に困る」

 他人の感情、触れて自身がおかしくなるのが怖いから拒否をしてきたというのに、何故僕は既に、こんなにも壊れてしまいそうなんだ。
 ほら今もまた、拒もうとするたびどうしようもないくらい胸が苦しくなる……。

「……もう出てって」

 これ以上僕をこの世界に留めようとするものは全て、敵。

「……またね」

 余計な感情も、記憶も、これで最後。
 締め括ったのは、誰だか覚えてもいない、優しい声の、『彼女』の存在。



fin
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