「雲平先生っ!」


 周囲を見回すと、離れた所から必死に俺を呼ぶ教え子の姿が目に入った。

「##name_2##?」

 普段は慌てた様子を見せないやつだから(静かと言うか、堂々としすぎて動じない)人目を憚らず俺を呼ぶ声も、急かす仕草もどこかちぐはぐに見えた。

「いいから早く!」

 戸惑って立ち尽くす俺を諌めるような口ぶりは、緊急だからと言うよりかはただ苛立っているように聞こえる。
 とにもかくにも、この写真攻めの状態から逃れる術を得た俺は、「悪い」と取り巻く生徒に一言だけを残して##name_2##の元へと向かった。
 立ち去る時は走ったが、ある程度場を離れた頃ただの早歩きを始めた##name_2##に俺も歩調を合わせた。
 室内アトラクションの建物内に入ると、足取りはまあゆったりしたものだ。

「お前…一人で何してんだ?」

 何かあったのかとは聞かなかった。
 初めから何も無かったことなど、一目瞭然だ。
 結果的に俺は助けられたが、彼女がそれを狙って俺を呼んだのか、それとも別の理由があるのかは微妙なところだ。

「団体行動が苦手なもので」

「それでも、遊園地で一人って…」

「嘘。先生と二人になるの狙ってた」

 率先して歩く##name_2##の表情を窺うことは出来なかったが、声に動揺を混じえた様子は感じられなかった。
 慌てて周りを気にするが、周囲は閑散としたものだ。
 普段から人気がないのに加え、今日は平日。
 当然と言っては当然だが、当たり前の事に安堵する。
冗談混じりに切り返すという大人の余裕が削がれているあたり、この時点で既に彼女の術中にはまっていた気がしてならない。

「ゴメンね?他のコと同じで」

 ろくに列んでもいない列を分ける敷居をぐるぐると回って乗り場にたどり着く。
 建物内に入った所で引き返すと言う選択肢は削られているから、最後の最後で後ろに回って俺の背中を押す##name_2##の行動にも、ろくに抵抗はしなかった。
 もちろん、トロッコを模した二人乗りのその乗り物が、人の歩くのと同じ速さで進むものだと確認をした後だったからだが。

「##name_2##…」

 ##name_2##は前を向いていたが、どんな手の込んだ仕掛けが現れようとも、仏頂面を崩しはしなかった。

「私さ、先生のこと好きだわ」

 果てしなく感じられた沈黙の後、##name_2##はどんな答えにたどり着いたのか、一人納得したように言った。

「皆だって雲平先生が他のコと話してたら嫉妬するくらいには先生のこと好きだけどね。私のは…もうちょっと可愛くない感情みたい」

「…子供が大人に言う台詞じゃないぞ」

 俺にとっては精一杯の切り返しだったが、##name_2##はものともしなかった。

「最近の中学生は凄いよ」

……みたいだな。
 助けるふりで恩をきせて、二人きりのシチュエーションを作るだなんて、たいしたものだ…。
 このアトラクションが終われば二人きりの時間も終わる。
 あいまいに話を流してしまいたかったが、##name_2##がこのチャンスを逃すはずも無かった。

「あーでも先生付き合ってる人いるんだっけ」

「一緒に住んでる人。付き合ってるって言った覚えないぞ」

「じゃあ付き合ってないの?」

 はっきり断らない残酷さ。
 男にあるまじき優柔不断さだ。
 これではまるで、わざとつけ入らせる隙を作っているようにしか思えない。

「秘密だ秘密。親戚かもしれないし」

 普通の女性だったら、中途半端な言葉の内容に顔をしかめる所なのだろうが、だが##name_2##は違った意味で怪訝な顔をした。

「…浮気の方がアブナイ感じでちょっと素敵だと思ったんだけど」

…一筋縄で行くわけもない。
 段々と話が厄介な方向に進んで行く。

「お前なあ、その若気の至り的な考え早めにどうにかしないと痛い目見るぞ」

 のぞむ所だと言い切った彼女の強気な笑顔に、ぞくと背筋が震えた。





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