教師というのは、時には教育とは関係のない物事にも仕事として関わらなければならないことがある。
大会やコンクールの応援、遠足、同窓会…。
任意であるにしても、行かないわけにはいかなかったりだとか、同窓会なんかも、遊びであるはずなのにどこか純粋に楽しむことが出来なかったり。
嫌なわけではない。
学校が萬天の里であるにしても、自分が望んで教師になったことに代わりはない。
ただ、正直言って…面倒だと思うことがないわけでもない。
特にこの、卒業遠足という行事。
(行き先は何故かたいていが遊園地)
自分が楽しむわけでもなし、生徒の点呼を取るためだけになぜ俺が呼び出されるんだ……。
『暗がりの恋』
「俺、担任持ってるわけじゃないんだけど…」
全班が遊園地入口を通過したことを確認すれば、後は見回りとして園内を巡回するだけなのだが、それはそれで辛いものがある。
まず、というか、苦痛の九割を占めるのがあの常に稼動しているアトラクションの群れ。
見ているだけで血の気が引くほどに、ぐるぐるぐるぐると俺の精神力を削る。
そして……生徒にせがまれる写真だ。
数枚は良い。
嬉しい。
楽しい。
ほほえましい。
けれど、それが園内で生徒に会う度となっては話しが別だ。
初めは苦笑混じりと言えど純粋に笑っていたこの顔が、徐々に引き攣り、最終的には笑みさえ消える。
いっそ生徒に見つかる前にどこかに隠れてしまおうかとすら思う。
隠れていたって、生徒の安全を確認さえ出来ていれば問題無いはずだ。
…なんて考えている先からまた、向こうから…。
「あ、雲平せんせー、一緒に回ろ」
と言って彼等は必ず俺の腕を引っ張る。
「仕事で来てるんだ、知ってるだろ…」
「えー?じゃあ」
分かり切ったその言葉の先は、俺の耳からは除外された。
けれど当然のように彼らは俺の隣に並ぶ。
「お前たちな、さっきもってオイっ!」
気付けば班のリーダーが既に行き交う一人を捕まえていて、俺はもう後が無い状況に追い込まれている。
生徒って言うのは、こういう時ばかりやけに行動が早い。
授業もこれくらい積極的に受けてくれたらいいのに…。
余計なことを考えている間に一枚目のシャッター音が鳴った。
そろそろうんざりだとは思いつつも、まぁ一応はかわいい生徒のため、とりあえず最後の力を振り絞って笑い顔を作ってみる。
やはり失敗作に終わってる気がしてならないが…。
数枚を撮り終わって、さぁ開放されたぞと思った時に必ず俺を襲うのが、
「あ、撮れてないー」
の声だ。
心底残念そうに言うが、俺だって別の意味で相当残念だ。
「焼き増ししてもらえ」
突き放つような俺の声と
「ゴメンもう一回!」
と言った生徒の押しの強い声が重なる。
「……?」
もう一人、誰かの声が重なった気がした…。