『夢見心地』


 ゆったりとしたソファに腰をかけ、手渡された資料のページをめくる雷光の視界を遮ったのは二つの手のひらだった。
 目一杯に指を広げても見開きA3のプリントは覆いきれず、けれどめくりかけのページを落とさせるには十分だった。
 活字を追っていた目を指から腕、肩と伝わせ寿の顔にたどり着き、尖ったその口先を見て雷光は苦笑混じりに笑った。

「寿は文字にも妬くのかな」

「もちろん」

 ねだるような唇が雷光のそれを上から塞ぎ、堪能するように啄んで遊ぶ。
 不意に資料が乾いた音をたて床に落ち、雷光の意識を独り占めしていたその紙の束が元あった場所、雷光の膝の上に寿は勝ち誇ったように身体を乗せた。
 はじめ勢いのあったキスがだんだんと緩やかになり、そして雷光のペースへと流れていく。

「ふふっ」

 唇を重ねたまま笑って息を漏らした雷光は抱いた寿の肩を押して、身体を離した。

「おねむ?」

「ん…」

 そう返事をしたくせ、寿は無理に雷光の手を押し戻し、そして再びキスをせがむ。
 無理矢理二度目のキスまでこじつけた寿は今度は自分の息が続く限りに雷光の口内を掻き回し、頭に酸素が回らず意識が朦朧とし始めたらしい頃やっとその唇を離した。
 酔ったように崩れて膝の上に丸くなる寿の肩を雷光は少し困った風に揺らしてみるが、例のごとく反応はなかった。

「ここで休む気かい?」

「ん…」

「ほら、俄雨が見てるよ」

「ん…いい…」

「雪見先輩も怖い顔してる」

「気にしない…」

と言った寿の声は既に寝言に近い。

「宵……」

 おもしろいものだからつい、と続けて口を開きかけると腹の辺りに暖かい寝息を感じ、雷光は吸った空気を仕方なく溜息に変えた。

「お前はもう少し周囲を顧みるようになった方が良いね。―――すみません、それで?なんでしたっけ」

 灰狼衆、森羅万象に関わる幹部総出で設けられた話し合いの場。
 苦笑と嘆息と刺さる視線をまとめて受け取った雷光はそれら全部に微笑み返し、そして手元で寝息をたてるネコの頭を自慢げに撫でて見せた。



fin.




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