「知ってる?今日クリスマスなんだよ」
街の高揚、どこからか流れ、混じり聞こえるクリスマスソング、路上にもサンタがたくさん居て、そんな中で放った私の言葉は場違い極まりない。
でも常に上の空で、街のイルミネーションどころかこの私すらまるで目に映さない、そんな人間を隣にしたら、そりゃ聞いてみたくもなるってもの。
「知ってる。さっきケーキ食べて来たから」
と言った宵風はやはり、その目に何も映してはいなかった。
『Illumination Magic☆』
(Thank you for 1000hit Sakurai-sama) 雪見の部屋。
盛り上がりに欠ける仲間のこと、パーティーなんて盛大なことはしないけれど、ホールケーキに乗ったあの砂糖サンタを食べたいとわめき立てた私をなだめる対処方として、結局みんなで私に付き合うことになる。
本当は宵風とケーキを食べてみたかった。
ただそれだけだったのだけれど、気恥ずかしさに負けた私は他人を巻き込むことにしたというわけ。
子供ではないのだからと散々文句を言いながらも、サンタどころかトナカイまで乗ったケーキを買って来てくれた俄雨が、その雪の積もったようなまるい世界にナイフを落とした。
結局私の思い通りになっている光景を呆れたように見守る雪見に、目を輝かせてケーキを待つ和穂。
一番大きな一ピースをさりげなく宵風に回す雷光の視線が恥ずかしくて、紅く染まった気配のする頬を隠しつつ余計なお世話だと小声で吐き捨てた。
私が初めて祝うクリスマス。
ケーキ一個で充分過ぎるほど幸せ。
私だけでない、ここに集まるような人はみな何かしら影を背負っているのだから、クリスマスを祝えるような人生を送ってきた方が少ないはず。
今日は私がサンタクロースで、押し付けがましくプレゼントを投げ付けているような、何だかそんな気に陥った。
なんだかんだ言いつつも楽しそうに笑ってる皆と、私のケーキに乗ったトナカイをおすそ分けしてあげた時に見せた宵風の紅潮が、サンタに贈られた何よりものお返し。
満たされた想いでチビサンタの頭を撫でてやると、癖のあるフォークの持ち方に人差し指にはめた指輪がカチカチと音を立てて鳴った。
「…一年前の今日、自分で買ったプレゼント」
注がれた意識に先手を打って、私は聞かれもしないのに言葉を返した。
買ったのはそう、一年前。
右手の、それも人差し指にするようになったのは最近だけど。
「プレゼント?クリスマスに自分でですか?」
珍しいものを見るような俄雨の目も、まあ当たり前だろうと肯定の返事を返した。
「一回ラッピングを解くときめき感じてみたかったんだよね」
リボンをほどいたその時訪れたのは、ただの虚しさだけだったのだけれど。
贈ってくれる人の笑顔がなければ、そんな喜び感じられるわけ無い。
「贈り物貰ったこと…無いんですか?」
「…子供がいい子でも、親が悪い子の家にはサンタって来ないらしいよ?」
あえてクリスマスに限定した話題でごまかし、苦笑を返した。
静まり返った室内。
同情の色を見せなかったのは宵風だけ。
だから私は貴方が好きなんだと訳も分からず嬉しくなって、手元のケーキに再び視線を落としたあとは、指輪とフォークが奏でる金属音だけが部屋に響いていた。
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