購買へと向かう雷鳴に引っ張られ出て行った壬晴の後ろ姿が扉の向こうに消えて、僕と寿は教室のざわめきの中に取り残された。

「うーん、やっぱりなんだか疎外感…」

 邪険にされているわけでないにしても、彼らと僕との間に距離がある、きっとそれは、事実だ。





『even if』






「で、結局二人だけで友情を確かめ合ちゃったりしてるわけなんだ」

 取るに足らない話題を僕は苦笑混じりに寿に語りかける。
 別に人に聞いて貰うようなことでもないのだけれど、隣の席に座るその存在が、僕の些細な言葉をも引き出させているみたいだった。

「疎外感かぁ。何となくわかるな、それ」

 僕の凹み具合を見ながらクスクスと笑いを漏らしていた寿は、不意にそう口を開いた。

「でしょう? たまには顧みても欲しいよ。友達でいるつもりなんだ、少なくとも僕の方は」

「そうじゃなくて、壬晴達の方」

……えっと?

「って、そっちなの!? それって疎外してる方でしょ!?」

「そうだよ?」

 原因は僕にあるなんて、平然と、単刀直入に、きっぱり言われ、僕はどうして良いかわからなくなって、溜息が出そうな情けない顔を頭を抱える仕草で隠した。

「は、はは……」

「壬晴も雷鳴も、虹一の胡散臭さ感じ取ってるからあんな態度取るんじゃないの?」

 無関心、という言葉で自分の臆病さを隠す壬晴に、隠の世を長く独りで生きて来た雷鳴。
 警戒心だけは強く持っていて、自分を隠す者には不信感を抱き……って、

「胡散臭いって、僕が?」

「他、誰かいる?」

「えぇ!? 僕のどこが!?」

「疎外感とかいいながらあんまり気にしてなさそうなところが」

素知らぬ顔でしれっと断言した後で、怖ず怖ずと僕の様子を伺う寿に、思わず降参の溜息を漏らしかけた。
 かなわない。
 隠の世とはいっさい関係無いはずの寿にまで何かを感づかれてしまうなど、僕の修行が足りないのか、もしくは彼女の感が恐ろしく鋭いのか。

「##name_2##さんにも僕って胡散臭そうに見えるの?」

「別に?」

 寿は鞄の中の弁当を取り出しながら、さも当然のように矛盾した答えを返して来た。

「でも胡散臭いんでしょ?」

「どっちだって良いよ」

 真剣に話をしている僕なんか視界にも入れずに、心からどうでも良さそうに寿はそう言葉にした。

「でも例えば、本当は君の言う通り僕が本当に物凄い秘密を隠してたりしたら?」

「“これも僕なんだ”って笑ってくれたら…」

「くれたら?」

「“そうなんだ”って笑い返してあげる」

……勝ち気な物言い。
 目眩がしそうだと思った。
 二人だけの会話が終わってしまうにしても、その自信にあてられそうになった僕はきっと、タイミングよく教室に戻ってきた壬晴と雷鳴に救われたんだろう。
 僕は、“それだけで充分です"と言えばよかった?
 それとも“ありがとう"と?
 彼女に返せる言葉を、僕は持ち合わせてはいなかったから。
 二人が席に戻って来る前に、と寿は僕に口早に言った。

「そのちょっと赤くなった顔とかも、実は作ってる?」

「ど、どっちでもいいって言ったのに!」

 正解を得られなかった寿は心底残念そうに眉を下げた。

「ねぇ虹一、知ってると思うけど」

「な、何?」

「二人と虹一はちゃんと友達だよ」

……普通だったら、嬉しいはず、なのだけれど

「素直にうんって言えないのは何でだろ」

 壬晴と雷鳴の距離は、きっと僕よりも近い。
 でも、僕と寿の距離はもっと近い
…………といいと思う。









fin




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