電波静臨 | ナノ

 





耳につく雄叫びを上げて、新宿の駅のホームに、猛獣が走り入ってきた。獣は一般民衆には電車と呼ばれているが、俺には虎かライオンのような獰猛な猛獣のようにしか思えない。猛獣の口が開かれる。その腹に俺を含み、無数の獲物を取り込んでいって、彼にその味は分かるのだろうか。虎が、走り出した。駆けて飛び越え跳ね上がって、目的の標的まで脇目も振らず走り抜けていく。動物界の王者を邪魔できるものなど、この世にはいないのだ。その猛者に相応しい姿に一人だけ、人間がいる。金色のたてがみを生やした人間凶器。彼の前には人は立たず、その後ろにも立ちはしない。王者とは、彼のことを言うのだろう。優しい優しい獣だ。相手をなぶる時、その阿修羅の如き力は容赦などしないくせに、一度その暴君の有様を見せ付けると、自分よりも弱いものにも慈悲の心を見せ付けるのだ。なんて弱い獣なんだ。俺は傷付けられても離れはしないというのに、心配の無駄遣いだ。君という獣と何日何月何年の長い年月を伴にしたと思っているのだ。シズちゃん、君は自分で思っているよりも弱いのだ。そう、家を出た時マンションの入り口に張られていた蜘蛛の巣に引っ掛かっていた小さな蛾とタメをはれる、同等だ。藻掻いて藻掻いて自分ではどうにもできない。まるでお前だよ、静雄。
虎が王者の住まう池袋に走り着いた。王者が見える。ちっぽけなホームにうじゃうじゃと密集する哺乳類の中に、一際目立つ姿が。虎の腹が裂かれた。裂かれた腹から噴き出す血液のように人間が溢れ出てきて、ホームを人間色に染めていく。その色にも染められようとせず、王者らしい風格と威厳を纏い、彼がこちらに向かってくる。ずかずかと音がしそうな歩き、足元に群れを作っていたかもしれない蟻の群生は蹴散らされてしまっただろう、哀れに、可哀相に。

「臨也、帰るぞ」

自分の殺物に気付いていない君の為に、俺が黙祷を捧げていたというのに君はなんて横暴な奴なんだ。そんな顎で使うような扱いをしないでおくれ、それだけで従ってしまう俺はまるで、都合のいい下僕ではないか。

「ごちゃごちゃうるせぇぞ、おらこっちだ」

腕をとられて改札口に向かう道程、彼の背中をひたすら追う。あぁ、この腕はまるで鎖だ、俺と彼とを離れさせないように、誰にも入らせないように、とても効果のある手段だ。
改札口を出て数歩、暗がりに連れ込まれる俺はまるで今から乱暴される少女のようではないか。耳に噛りついた彼の口が笑った。

「あながち、間違ってねぇだろ」













電波になりきれていない電波…な気がす、る
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