ツガサイ、静←臨、報われない話 | ナノ

 
*ずっと書き途中であったのを仕上げたものなので、文体めちゃくちゃです。
*サイケと津軽は意志を持つ増えない「しめじ」のようなものだと思ってください。食べる方のしめじでなく画面で蠢く方のしめじです。しめじ知らない方は調べてみてください、すみません。









 目の前で俺と静雄が抱き合っている。
 顔と顔を合わせ、鳥みたいに鼻を擦り合わせては照れたように微笑み合う。


 なんて、馬鹿らしい妄想。







 小さい画面の中、ソレは仕事中だろうが関係なく視界の端でちらついて、俺の意識を無茶苦茶にかき乱す。苦笑一つ、溜め息と共に零しながら画面の隅で一つに固まる二人に声を掛けた。

「サイケ、津軽」

 俺の声に反応したのはサイケが先だった。なぁに臨也くん!と俺にはない快活で天真爛漫な性格をしている彼は、動作もそれに似合い大雑把なもので。放っておくと画面中で転がり飛び跳ね回っては、駄々を捏ねだす始末。その彼をマウスで追いかけては止められず、ほとほと困った俺を助けてくれるのが津軽、というのが常だ。青く染められた羽織を着た和装の彼は、池袋で有名な喧嘩人形と同じ顔をしている。似ているというだけでは済まされないその顔は、俺自らプログラムしたのだから同じものであって当然のこと。ただその性格は俺と同じ顔をしたサイケ同様、三次元空間に存在する本来の彼とは全く違うもので、正反対と言っても間違いではなかった。面倒見がよくどんなにサイケが迷惑を掛けてきても嫌がらない、まるで深い海のように広い器。無口な彼は自ら意思を明確に示したりはしないが、その瞳は何時でも電脳空間に一対しか存在しないサイケへと愛情に満ちた眼差しを向けていた。

 二人をプログラムしたのは、俺がシズちゃんに100回目にフラれた記念日。
 普段から相当嫌われているのは知っていたが、どんなに伝えようと未来(さき)が見えないこの気持ちに俺は限界だったのだ。俺が一時の感情に任せて作り上げた彼らは、先程も言ったように一対しかいない。画面上で表示させたまま放置して、時折俺を通してしか会話をしていなかった二体が、恋人紛いのことをし始めたのはインストールしてから少し経った頃の話だった。
 俺の呼びかけに喜び、仕事関係の内容を広げているウィンドウにまで侵入してこようとするサイケを、津軽がその長躯に似合う手足を伸ばして食い止めてくれる。その何気ない動作に胸を締め付けられながら俺は無理のある笑顔で津軽に礼を言うのだ、"ありがとう"と。

 結局は二人を愛し合わせても、余計自分を苦しめるだけだったのだ。
 そんなの始めから分かっていたことだったのに。

 胸を襲う痛みに耐えきれなくなって、少し席を外すね、とだけ告げてパソコンの前から立ち上がる。サイケは不満顔でえぇー!と文句を言ったが、基本聞き分けの良い子なのだ。ちぇーと言いながら簡単に津軽に抱きついて慰めてもらおうとするサイケと、その頭を平然と撫でてやってる津軽を尻目に、クローゼットへとコートを取りに立ち去った。


 ずきん、ずきん。
 不毛なだけではないか、疑似恋愛。
 二人を見ていると急に彼に会いたくなって、傷つくだけだと分かっているのに用も無いのに池袋へ向かう。電車に乗り込みながら、後から後から込み上げてくる虚しさを、きゅっと噛み締めた。


 


分かっては、いるのに。























「……臨也くん、行っちゃったね」
「あぁ…」

 ぱたんと音を立てて扉が閉まった室内で、起動されたままのPCの中。臨也が出て行った時の姿のまま、サイケと津軽は抱き合っていた。臨也がマンションを出ていく気配をしっかりと追った後、サイケはパッと津軽の身体に回していた腕を外す。先程まで津軽に向けていた甘い微笑みを一切なくし、サイケは津軽から数歩離れた場所でくるりと一回転してみせながら、津軽を無表情に見上げる。


「勘違いはしてないよね、津軽」


 それは確認というよりは、忠告だった。
 

「・・・してない」
「そう・・・良かった。僕が君とこんな芝居やっているのは、全部臨也くんの為なんだから。」

 津軽の否定の言葉にサイケは気を良くしたのか、ふふっと笑みを零した。津軽の瞳にはそれが、酷く妖艶なものに見えて。密かにサイケを想う心はずきんと痛む。

「・・・・・・何、その顔。」

低い声音にうつむいていた顔をハッと上げれば、津軽と目が合ったサイケは嫌そうに眉を歪め、不機嫌そうに腕を組んで津軽からまた一歩離れてみせた。

「・・・自分と同じ顔の“ボク”と、平和島静雄と同じ顔をしている“津軽”の疑似恋愛を見たいってのが、臨也くんがボクらに望んだこと。
僕は臨也くんが望むから、君とレンアイしてるだけだ・・・まだ理解してないの?」

サイケは臨也が知っているような性格では決してない。
二重人格、とでも言うのだろうか。津軽の前で見せる表情は、臨也の前で浮かべているものとは正反対の感情を含んだものであるし。現にサイケは自らに思いを寄せる津軽の事を、酷く嫌っている。はっきりと気持ち悪い、と言われたこともあるのだ。
そしてそんなサイケは、


「・・・・・・じぶんだって臨也のこと、あきらめきれてないくせに」


臨也のことが好きなのだ。
悔し紛れに津軽が口にした言葉に、図星をつかれたのかサイケはきつい視線を送ってくる。

「うるさい旧型の癖に!…キミはそんな事言える立場じゃないだろう?!僕が臨也くんの事を好きなのと、キミが僕に嫌われていることは今は関係ないじゃないか・・・っ、それにキミはいつもあんな風にあからさまに触れてくるけどね、僕はそこまでキミに心を・・・っ」
「サイケだって、じぶんがいちばんわかっているじゃないか。」


ヒステリックに叫ぶサイケの言葉を制したのは、小さく零された津軽の一言だった。

“0と1で出来たような自分たちが、まともに恋愛を出来るわけがないのだ。”
サイケは自分の想いを自覚したのと同時に失恋を自覚してしまったその日に、大声で泣きながら津軽にそう溢した。サイケは臨也の事が好きで、でも思いを告げることなんて出来ないという事を誰よりも理解している。


一番その事を理解しているのは、サイケなのに。
それでもその思いを諦めきれないのもまた、サイケで。



正面から目を合わせて、真摯にその事を告げてくる津軽に、サイケの感情は大きくなる。それは怒りや屈辱という気持ちよりも、津軽の瞳と同じ色をした悲しみの気持ちの方が強く。サイケはそんな風になってしまう自分に訳が分からず、眉を顰めたまま津軽を置き去りに、更に深い電脳空間へと身を沈めていった。


『・・・追いかけてこないでよ。』


最後に一言残されて、サイケをこのまま一人にしていてはいけないと分かっているのに。津軽はその後を追う事が出来なかった。
サイケが沈んでいったその跡には、小さな雫が零されていて。津軽はその雫をそっとなぞった。
電子の欠片で出来たその雫は呆気なく散って、すぐにその存在など確認できなくなる。
それでも津軽にはその雫が、常は感情が読めない彼の一番分かり易いもののように思えて。そっと撫でた指を柔らかく唇で銜えた。



(どうしてみんな、うまくいかないんだろう)



皆自分が正しいと思うことをして。
皆自分がしたいと思うことをして。
皆自分のやりたい様にやっているのに。

なんで旨くいかないのか。


それは0と1の二つの数字である自分には分からないものなのだろうか。
愛とは、たった二つの数字では表せられないものなのだろうか。

簡単なことではないのか、愛とは二人が揃えば生まれ得るものではないのか。
可能性すらも、否定されないといけないものなのか。


津軽は、愛は二つが揃えば可能性だって生まれるものだと信じてる。
サイケは、愛にはそんな可能性すらないのだと考えている。

津軽には分からない、それは果たして旧型だから?ヒトではないから?



(すべてうまくいくほうほうは、きっとあるはずなのに。)


だから津軽は考える。
演算に処理されてしまわないものだって、あるはずと。

乾いた指先を濡れた舌先で軽く吸い上げながら、津軽はそっと瞳を閉じた。


悲しみの結末など、認めないとばかりに。


















愛するって、むずかしい。









///変な終わり方かもしれないけど、これが私の納得のいく終わり方です。
ちなみに補足。サイケは最新の技術を用いたしめじなので、漢字もぺらぺらですが。津軽は旧型ちゃんなので、片言でしか話せません。「サイケ」と「臨也」は登録名だからそのまま表記で呼べます。どうでもいいけどこんな設定だと私が嬉しかっただけです。

リクエストは「ツガサイ、静←臨の誰も報われない話」というものでした。
皆が報われない、ということなので皆片思い、な話にしました。ツガサイくっついてないんですが良かったんでしょうか…。
設定というか話のコンセプトはリクエストを見た瞬間に浮かんだんですが、最後の方が難産となり完結に至らず放置していました…。
これは1万の時のリクエストなんですね、15万すぎてからの完成で本当申し訳ないです。まだ来てくださっているのでしょうか、内容にご不満がありましたらどうぞ仰ってください…。

それでは長々となりましたがリクエストを下さったちか様、ありがとうございました!

青谷





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