絶頂を下さい | ナノ


※赤+四木×臨







しくじった。
後ろから響く怒声と迫りくる大勢の足音からひたすら逃げる。
池袋中の逃走ルートを頭に入れ、パルクールという移動技術を取得した俺でも、相手はプロだ。
撒いて、隠れ、逃げ続けても、何処からともなく次から次へと集団が現れてきて、埒が明かない。
額を伝った汗が視界を遮り、飛び移ろうと手を伸ばした手すりへの目測を誤る。

しまった。

爪先だけが手すりを引っ掻いて、俺の体は三階建てのビルの屋上から落下する。
下から当たる風ではない寒さが俺の背筋を冷たくする。
落下して行き着く先、コンクリートとの打撃を少しでも和らげる為、瞼を固く瞑り、受身の態勢へと入る、その時。
ボスッという音と体に走った感覚、落下していた体が受け止められた感触、膝裏と背中へと誰かの腕が回る。

「空から、お姫さんが落っこちてきたよ」

人を洒落た名で呼んでくる者、そして今の状況から考えて、思い当たる人物は一人しかいなかった。

「あ、かばや、しさ……」

どうして、と呆然としながら瞼を上げる。
見上げた先、仄青く光る月を背景に笑う、赤い髪の男がいた。

「探したよ、折原さん。四木さんも心配だ、心配だーってね。さ、早く安心させてあげないと駄目だね」

にこにこと、口端だけで笑う男は読めない。
おいちゃん自らがエスコートしてあげよう、と冗談みたく言いながら、俺の体を包み込む腕は力強くて、まるで猛獣に捕食されたみたいだ。
路地裏の先、窓も全て黒塗りされた車が止まり、もう逃げられやしないのだと思い知らされる。
嗤うしかない。


「お手をどうぞ、お嬢さま」










もう駄目だった。
この世界で失敗したものの末路は大体決まっている…殺し、流し、渡し、どれをとっても最悪の結果だ。

数日前、粟楠会から、流した闇取引ルートが間違っているというクレームがきた。
報告したのは取引に駆り出されるような下っ端中の下っ端で、クレームを受けてから俺自身で再度調べなおしてみても情報に不備など見つからず、だからそちらの判断ミスだろうと俺は申し上げた。
訝しがりながらもその日、俺の事務所を去っていた彼は数日後、数人の仲間と共に海から死体としてあがった。

その翌日、今度は上層部の方から事情を説明するようにとクレームがきたが、それには余計な命令も付いていて、俺は思わず耳を疑った。
すぐにこちらの失敗を否定すればどうにかなったかもしれない、だがしかし俺にはそれができなかった。
クレーム、及び場合によっての折原臨也捕獲命令を出したのが、四木さんだったからだ。
四木さんに嘘をつくなんてできない、今回自分でも少しの責任を感じていた俺には四木さんを欺ける訳がないと思った。
それに俺にはそんな事よりもっと、大切な理由があった。







四木さんと俺は所謂愛人というもので、二人の間に時々赤林さんもちょっかいを出してきては、よく三人で夜を楽しんだ。
決して正しい関係だったとは思わない、でも俺にはあの人に愛されているという確かな自信があった。
俺が終電をわざと逃して帰りたくないと駄々を捏ねれば、彼は一つため息を吐いて俺を家に泊まらせてくれた。
彼のために、と作ったがあまり美味しく出来なかった食事を、全て残さず食べてくれた。
彼の動作一つ一つから彼の愛を感じられて、ベッドでの愛し合いよりも胸が高鳴ったのを覚えている。



俺は四木さんが好きだった、愛してた。
その事からの欲目は多少なりともあっただろうけど、彼だって俺のことを愛してくれていたはずだ。
だからその命令をしたのが彼だと知ったとき、俺はそれを信じるわけにはいかなかったのだ。きっと彼は上の立場だから仕方なく指示を出すしかなかったのだ、と。
そうだ彼は俺を信じてくれていた、俺は捕まるべきではなかったのだ、捕まってはいけなかったのに…。


なのに何故、おれはここにいる。


粟楠会の事務所へと向かう車の中、赤林さんの膝の上で抱かれながら、俺は後悔を重ねていた。









粟楠会の事務所、ソファーの上。
俺はまだ赤林さんから解放されず、向かい側のソファーで煙草を吸う四木さんを震えながら見詰め続けていた。
ここに連れて来られてからずっと四木さんは黙ったまま、赤林さんも時折頭を撫でてくるだけで、二人とも無言を貫いている。

「……嬢ちゃん、大変なことになっちゃったねぇ」

沈黙が途切れた、赤林さんはこちらに語り掛けながら空いた手で俺の顎の下を撫で上げる。
猫を可愛がる時にするような、その仕草は愛でるようなものではなく、獣が食い散らかす前にする味見のようなものだった。
赤い鬣のライオンが顔を覗き込んでくる。

「あのね、嬢ちゃんのことはおいちゃん大好きだし守ってあげたいんだよ。…でも今回ばかりは駄目だねぇ、なんとびっくり!、嬢ちゃんにクレーム出したのって実は、上層部の方の息子さんだったのよ。…もうその人が怒り心頭でさー…殺せ!殺せ!って騒いでばっかでもう殺ししか落とし前の付け方がないわけ…分かるかな?」

ライオンがにやにやと嗤っている。
まぁ愛人の子だったしおいちゃんたちも今回息子だって知ったんだけどね、と嘯くこの男は俺の今の状況を完全に楽しんでいた。
悔しい、ちくしょう、と罵りたい気持ちとは別に目からはぼろぼろと涙が吹き零れてきた。
そんな俺を、泣いちゃうなんて可愛いねーとからかってくる赤林さんにさらにまた、屈辱感が募った。





「……あんまり折原さんを虐めないであげてください赤林さん」


とうとう四木さんが、喋った。
にやにや嗤い顔のまま、俺をからかっていた赤林さんを戒めてくれる。
四木さんの命令を受けると、赤林さんはぴたりと俺で遊ぶのを止め、両腕を使い俺の腕を背後へと回し、羽交い絞めにしてきた。

「……っい…!」

その容赦のない動きに苦痛から声を洩らす。
赤林さんを睨み上げてもこちらには意識も向けず、ただ四木さんをじっと見ていた。


「折原さん…この前作っていただいたお料理、美味しかったですよ」
「…!し、きさっん…!!」


唐突に四木さんが話し始める。
この場には全く関係ない内容だったが、滅多とない四木さんの褒め言葉が嬉しくて、顔を綻ばせながら見上げた先。
四木さんが胸元からゆっくりとそれを引きずり出しながら、続ける。


「また食べたいものです………あぁ、そういえばその次の日の貴方も大変可愛らしかった…。私が愛撫するのを少しでも止めると、ぐずぐず泣き出してしまって……そうですねぇ、今の折原さんのような感じだったでしょうか…必死に耐えていたあの顔と…そっくりですよ」
「しきさ、ん…それ、は…」


話しながらそれを磨く手を止めない四木さんに、ここへ来てから一番の恐怖を味わう。
その動作を止めさせてあげたくて、がむしゃらに動いてみても極められた腕はびくともしないで、どうにもできない自分に腹が立ってくる。


「はなせ!はなせよ!!四木さんが!し、きさんが………四木さんはそんな事、しなくていいんだよ……!!」
「…その顔見てると思い出しましたよ…あの後貴方耐え切れずにおねだりしてきたんでしたね………ねぇ、折原さん」


俺の制止も聞かず、四木さんはかたりと銃口を俺に構え、引き金を押さえて。














「アレがそろそろ……欲しいんじゃないですか…?」















絶頂をください
(もうイっても、いいですよ)






企画「劣情と誘惑」様に提出。
アレとは絶頂ですよ補足。
一途な病んでる臨也おいしいですもきゅもきゅ、四木さん赤林さんは大人ですのですっぱり切り替えが出来る人だと考えています…。
素敵企画ありがとうございました。応援しています。








「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -