静雄鉄道 | ナノ

 





ぴりりりりり、ぴりりりりりりり。





何処からか電話の着信音が聞こえてきた。
その音が聞こえた瞬間、今まで臨也がいくら訴えても止まらなかった男たちの動きが止まった。
イきそうになる寸前で止められた行為にほっとしつつも、どこか物足りなさを感じる心を無視する。

ぴっという音の後に男のうちの一人が応答しているのだろう、ぼそぼそとした声が聞こえてきて一つの足音がこちらに近寄ってきた。
近寄ってきた男は通話中の携帯を手にしていて目を白黒させている臨也の肩に手を当てると耳と口に電話機を通話できるように固定した。
腕を両側から押さえられている臨也はどうすることもできずに声を出せ、という男のジェスチャーに従い震える声で電話の向こう側にいる人物に声を掛けた。


「も、もしもし…?」


話しかけてみてもスピーカーから伝えられるのは無音のみで、いよいよ臨也にはこの男たちのしたいことが分からない。
なんなんだよ、と後を引く快楽にじくじく疼く身体を気にしながら変化を待っていると、向こう側から誰かの息の音が聞こえた。


「よぉ、元気か?折原??」


初めて聞く声だった。
その気軽な様子にまるで友人に声を掛けられたような感じを受け、ますます相手の男が誰なのか分からない。
自分にそのような親しい友人は数人しかおらず、また自分のことは皆、臨也と呼ぶのだ。
苗字で呼び合うような友人などいない。
それに内容こそ朗らかだったが、その声はこちらを嘲笑うような低く透明で存在感を感じさせない声だったのだ。相手を対等ではなく見下すように見ている者の声だった。

そして最も不可解だったのが、他の男の電話に掛けたくせに明らかに自分が電話にでることを目的にしていた事、であった。


「だれ、だお前…」


まさかこいつはこの事に関係しているやつなのか?何か知っているのか?様々な憶測が臨也の脳裏を駆け巡る。
そして、臨也の考えは悪い意味で肯定されることになるのだ。


「あー初めて地声で喋るよなぁ俺とお前は。そういやどうだ?そこの男共には気持ちよくしてもらったか?…いやーあんまりお前が池袋で問題起こすからさー、満足に動けない街に変わってお仕置きよ!みたいな??」


その言葉で分かった、こいつは九十九屋真一だと。
街を人間みたいに語るやつを、そして俺と地声でない状態で会話した人物なんて一人しかいない。
背筋がぞっと冷えた感覚がした。かたかたと身体が震えだす。

「つく、もや…?」
「おいおい、大丈夫か?あの素敵無敵な情報屋さん、が声震わせてんじゃねぇか。かっこ悪いねー臨也くん。……って今もしかしてイイとこだったりしたか?ごめんごめん、んじゃ他の奴らの携帯にでも指示しといてやるからさ続き、してもらえよ」

いやー新宿の折原臨也を犯すオフってのダラーズの裏掲示板に書いたらこんなに集まってくれたんだぜー?嬉しいだろ、なぁ折原??

つらつらとよく動く口だと思った。まだまだ続く奴の台詞を止めたいと思った。


ぴろりん、とこの場には相応しくない間抜けた音があちこちから響き始めた。
どうやら言葉通り指示を出し始めたらしい九十九屋に恐怖を感じる。


「ねぇっ、やめてよこんなの!やだ!!」
「うるせぇなぁ、最後まで可愛がってくれるって言ってんだからよかったじゃねぇか…さっさとそいつらに開発してもらって新しい情報収集の手段に自分の身体を使ってみればいいだろ?……通話このまま繋がせておくから安心しろよ、じゃ存分に…まぁ喘げよ折原」


九十九屋に許しを請いでも非情な言葉を返されるのみで周りから一時離れていた男たちがまた近づいてきた。
高ぶっていた俺の身体はこの数秒の電話の恐怖だけですでに冷え切っているというのに、男たちはまだ治まっていないらしい。

一度止まったはずの嗚咽がぶり返してきて止まらない。
九十九屋の笑い声を耳にしながら絶望感に浸っていると。













がっしゃあああああん!!!!!!!!





何故か目の前の男たちが出入り口から吹っ飛んでいった。
訳が分からないで思わず唖然としていると聞き覚えのある声と共に見覚えのある金色が目の前に現れた。

「…おーい、いーざーやーくーんーーー??」

なんでシズちゃんがいるの。
どうやら隣の車両にいたらしいシズちゃんは背後に阿修羅王みたいなのを従えたままずかずかとこちらに近寄ってきた。
いつの間にか緊急停車していたらしい電車は隣の車両はおろか、この車両以外に人はいなくて既に運転手含め全員が逃げ出しているらしい。

シズちゃんが近付いてくるのに合わせ、その長い足によって周りの男たちは一掃されていった。すごいやシズちゃん、なんかRPGゲームしてる気分。と、自分の姿や置かれた状況を忘れ、ある種の感動を覚える俺である。
俺とシズちゃんの2人のみとなった車内で目の前にまできたシズちゃんは、床に落ちている携帯がまだ通話中であることに気付き、屈みこんでそれを拾い上げる。


そのまま携帯を耳に当て、「おい、聞こえてんのか?」と声を掛ける。しばらくして応答があったらしく何事かを言われているみたいだ。
どんどんシズちゃんの眉間にはシワが増えていって最終的に血管が額に浮き出てきた。
携帯もミシミシ言い始めて、あちゃーと思ったがそれでもまだ携帯を壊していないことに気付いた。
あのシズちゃんがまだキレてないなんて珍しい、な。

ようやく相手の長口上が終わったらしく、シズちゃんがゆっくりと口を開き始める。

「…べらべらと喋りやがるから待ってやってたがよぉ…うぜぇ、うぜぇうぜぇええ!!!!いいかよく聞け!!!!」

ミシッ
あ、画面逝った。


「ノミ蟲はなー…俺の獲物なんだよぉ……人のモンに勝手に手ぇ出してんじゃねぇええええええええ!!!!!!」


がしゃん、とシズちゃん的には電源ボタンを押したつもりなんだろうけどあきらかに規格外の力で押されてしまったらしい携帯はどうやらシズちゃんの馬鹿力には耐え切れなかったらしい。
大破してしまったそれをシズちゃんはどっかに投げ捨てて、くるりとこちらに足を向けてきた。

そのどうにも頭に血が上りきった様子を見てようやく今度は自分の身が危ない、ということに気付き俺は青褪める。
でも心の奥ではあんな男たちにではなくシズちゃんに殺してもらえることが結構嬉しくってその二律背反に俺は首を傾げた。……なんでだ?


すっと俺の前にしゃがみこんできたシズちゃんにつれられ思わず姿勢を正す。黙ったシズちゃんってちょーこえぇ…。
そのままげんこがくるか、アッパーか頭突きか、と身体を硬くする俺を他所にシズちゃんは俺の片腕を掴んで持ち上げ、自分の肩に回してから立ち上がった。
どうやら俺のことを支えてくれているらしい。電車を降りて歩き始めたシズちゃんに合わせ、いまだ震える足で歩きながら考える。

な、なんだ。心配して損したではないか……とどっくんどっくんと動くチキンな心臓を宥めながらシズちゃんの様子を伺う。
シズちゃんは自分の肩に負担をかける俺の体重など感じないらしく、口に銜えた煙草に片手で火を着け始める。
余裕だなぁさすがシズちゃん…と感心しつつも釣り合わない身長さに俺の身体が悲鳴をあげはじmってちょっ痛いいt!シ、シズちゃんストップストップううううう!!!!

「あー?うっせぇなぁノミ蟲」

途中から心の声が漏れていたようで耳元で盛大に叫ばれたのがうるさかったのだろう。
迷惑そうにしながらも立ち止まってくれたシズちゃんにマジで感謝。
ちくしょうでかいんだよ、しね、自慢か。

「……あの、…その、痛いんだって…肩が…」
「…………あー、てめぇあれか。ちっせぇからとどかねぇんだろ。…ったく素直にお願いしてきたらいいのによぉ面倒くせぇやつだな…」

シズちゃんの台詞にかちん、とするがここはキレては駄目だ。
落ち着け落ち着くんだ。

「おい、てめぇ今日なんで池袋いなかったんだよ。」
「え…、いや…俺、居たけど…。」
「あ゛?ノミ蟲臭しなかったぞ…。……てめぇなんか香水でもつけてんのか。今日あんまり臭いしねぇ…ってか他の男の臭いがする……?」
「いや、ノミ蟲臭って…ってええぇシズちゃんどうしたの、く、すぐった、いってば!!…………えっ、ぃやああああああ!!」

すんすんと鼻を鳴らし始めたシズちゃんは何を思ったのかそのまま俺の首元へと顔を埋める。荒くはないけど微かな鼻息が首や耳を擽り、勝手に身体がびくんと反応した。
元々首と耳は敏感な俺だが、今日は先程まで変態どもに弄られていたのだ。その上電車内で男に舐められた耳に舌を這わせてきたシズちゃんに、もう許容範囲を超えていた俺は色気もなんのその、な悲鳴をあげる。勘弁してくれ!
恥ずかしくてシズちゃんの顔を両手で押しのける。


「もうさっきからシズちゃんおかしいよ!!というかなんで新宿行きの電車乗ってたの?!それに、なんか用事でもあったんじゃないの?俺以外にさ。ね、そうでしょ!」


不穏な雰囲気を撤回しようと俺は話題のすり替えを試みる。そうだ、シズちゃんこそ今日はなんか様子がおかしいぞ…俺を見ても殴らないしそれに池袋から滅多にでないくせになんでわざわざ新宿になんかへ行こうとするんだ…。

相手を不十分に刺激しない様に言葉を選び質問する俺にシズちゃんはサングラスの向こう側で目を瞬かせ、そういやそうだったなぁ…って呟く。
よし!これでこの変なシチュエーションからもおさらばだ!俺なんかに用事があるわけないしシズちゃんは自分のことを優先するだろう。
ところが平和島静雄はどこまでも俺の予想を裏切る男だったらしい。


「あー…、なんかいいや。目的なら果たしたしな。」
「は?」
「まぁてめぇに会って気付くっていうのも尺だがようやく落ち着いたぜ。うん、」

あれ、なんかシズちゃんの目が心なしかすごく優しいような…な、なんだこの空気は……かゆい!
シズちゃんの目的とやらを聞きたいような、聞いたら戻れないような、…あっやっぱり言わなくていいよシズちゃん!嫌な予感するからね!!

「そ、そうならいいんだよ。」
「そうか…?んじゃ、聞きたいことがあるんだがいいかノミ蟲くん。」

もう何も考えたくない俺へと、シズちゃんがそれはそれは男前に微笑む。
か、かっこいいなんて思ってないんだから!

茹でたく状態でまともにシズちゃんと目を合わせられない俺は必死に顔を背ける。
そんな俺にまた微笑んできたかと思ったらそれは落とされた。


「臨也、てめぇ電車で何されていやがった」


ちゅどーん、って音が響いた、背景とかに。
にこにこと微笑んでいるままのシズちゃんが逆に恐ろしくなってきて俺はますます顔を反らす。そういや今チラッと見れたシズちゃんの額になんか血管浮き上がっていたような……?

「俺以外に遊ばれてんじゃねぇよ。お仕置きだなぁ臨也くーん?」
「ちょ、お仕置きってな、っていやああ脱がさないでええええ……」



その後俺とシズちゃんがどうなってしまったかは割愛させていただこう。
























「あー残念だった……まさかあそこに平和島静雄がいるなんてな。……あと少しで折原がめちゃくちゃになったってのによー」


池袋の街を堂々と上から見渡せるほどの高さにある高層ビルのワンフロアで、男の独り言が響く。
酷く残念そうな声音をしているがその内容は大変物騒なもので、それが男の狂い具合を上手く表していると言えるだろう。
彼の子飼いの情報屋から次々と送られてくる現在の彼らの様子を見て、男は感情のなかった表情に笑みの灯火を点した。

「まぁ面白いことになってきたし、いっかな。これでしばらくは折原にも目付け役が出来たって訳だしな。」

腰掛けていたデスクチェアから立ち上がり、少し固まってしまっていた体を伸ばし、解す。

「でも、まさか釘を刺されるとはな……俺も暫くは大人しくしとくか」

自らが深く愛する池袋の街を天井から窓までを覆うガラスから眺め、男はこれからの計画に修正を加える。

「だが、俺は諦めねぇぞ…平和島静雄。……ちゃんとペットには首輪付けとくがいいさ。」












車内では九十九屋真一をマナーモードに設定し、ご使用はご遠慮下さるよう、お願い致します。また、折原臨也の付近では電源をお切り下さい。  株式会社 平和島静雄鉄道







シズちゃんは臨也に会いに新宿行って、あーんなことされてる臨也を見て自分の気持ちを認めたんだよ。

ちなみに関係図  九→臨(→)←静
九十九屋は楽しんでるだけで臨也に恋愛感情はなかったのに、静雄といちゃらぶしてる臨也見てショック受ければいいな!

最後ぐだぐだになったので書き直しいつかしますね





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