それなりに高さのあるホテルの窓枠に腰掛けて、暗い暗い空にひとつ浮かぶ月を見上げる。
誇り高いその様は孤独さも醸し出し、哀愁の気を帯びていて、黒い壁紙にぽっかり開いたその穴は瞳に大きく映える。まるでこちらを呑み込もうとしているみたいだ。
ぱたん、背後から響いた戸の閉じる音。こちらに擦り寄る足音が続いて来、そして一言、「何をしている?」とだけ。俺はそれに「何も、」と返し、頬に手をかけてきた男に淡く微笑んだ。
腕をとられ、促がされるがままに部屋の中央に鎮座するベッドへと連れて行かれて、そのままそこへと転がる。
圧し掛かってきた男の首へと解放された腕を自ら回し、唇をぶつけ押さえきれぬ熱情を分かちあう。
「………ん、」と濡れた声を上げれば男は簡単に喜び、優しい愛しい人間から荒れ果てた獣へと変わる。
この男はベッドの上だと性格が変わるという性質のわるい性をしているのだ。
「お前は、俺の言うことだけ忠実に守ってりゃいいんだよ」
「う、あぁ…っん、ゃああっ」
慣らしもせずぶち込まれた男の一物と、それを包み込む俺の粘膜とがひどく熱い。
男の首へと回していたはずの腕は今では頭上できつく縛られて、胸で赤く主張していた突起は男が銜えている煙草の痕で赭く爛れてしまい、焦げ臭さを纏っている。すでに何度かイった衝撃で周りに散らばってしまっている白濁と血の斑点がその行為の激しさを物語っていた。
しかし、それでも男は何本目かも分からない煙草を手にしたまま、年齢にそぐわぬ腰使いでさらに俺を疲労させようとする。
「まだへばんじゃねーぞ、お前はまだ使えんだからな」
男の口はまだ動く、俺の口はもうまともに動かないというのに。
性交の途中に男が殴ったおかげで傷ついた口端へと男の手が伸びる。煙草が持たれたままのそれは明らかにその赤く滲んだ傷へと狙いを定めていて。
「ひ、ぃ…っ、あっあああぁぁああ!」
「ははっ…、お前の穴はガバガバだからなぁこうでもしないと締まんねぇんだよな……って煙草でイくな、淫乱。」
あああああっあっあうぅううああああ
痛いイタイイタイ!!
痛くて痛くてただ熱い。ちかちかと瞬く視界、口と共に焼けきった脳味噌は到底思考することなどできやしない。
俺の身体を使って自慰をするこの男は誰だ。
もう嫌だ、と心が叫ぶのを無視して、男の要求通りの言葉をひたすら口にする。
『ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、』と。
男はそんな俺の無様な肢体に満足したようで、涙で目を腫らす様子など省みず人を巻き込んでの自慰を再開する。
俺はただ、受け入れてもらえない俺の愛を守ろうとして忠実な人形へと化けるしかないのだ。
「やぁああああ…もう無理らってばぁあああ……」
掠れて聞くに堪えない嬌声をあげながら、思い出した。
俺の愛、そうだ、俺の愛はどうなってしまった。
ただ一人にだけ愛しく想って欲しい、という稚拙な愛は、まだ無事だろうか。
この地獄のような交わりの仲に、はたして求める愛はあったのだろうか。
愛、それだけが自分の中で確かなものだったというのに。
「折原ぁ……くっ…………臨也っ…」
「…ひぃんっ…ぅんんんう………」
誰だ、誰なんだこいつは。
俺を、折原臨也を、愛してくれるのはこいつなのか?
「もう、ぃや」
愛を恋う。
(請おう、貴方の愛を。俺だけを愛してくれる誰かの愛を。)
(そう、ただ一人、貴方だけに愛されたかったのだ。)
気づいて欲しいと喚くこころは無にもどして。
企画「
イデアの亡骸」様に提出。
人生初の18禁小説がモブ臨だなんて私、信じない。でもそんなエロくないからいいか。
お題の「請う」もいいが「恋う」の意味が素敵だったのでこちらを拝借。
素敵企画ありがとうございました!場違いすみませんでした!応援していますー!
※2010/10/17(少し変えたり消したりしました)
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