謝罪 | ナノ

 





 高校生の静雄は、自分の腕に縋り付きながら、謝罪をしてくる誰かの夢を、時々見る。
 ぼろぼろ泣きながらごめんと呟くのを止めたいのに、夢の中だからか静雄の声は届かなくて。その男が夢に出てくる度に、嫌な思いをする。
 見覚えの有る筈なのに、見た事もない年上の男。知り合いと風貌が似ているが、年齢の合わない男。
 ごめん、ごめんなさいと今日も静雄に許しを請う男。朝起きたら、静雄はその夢の断片しか覚えていない。
 数年前の静雄が見た、少し不思議な夢というだけだ。だからその夢を静雄は深く気にしていなかったし、大人になってからはずっと忘れていた。
 これはただの、夢の話。









 誰かが叫ぶのを聞いた。 
 

 そっと瞼を開いて、隣で眠る男を確認する。男は眉間に皺を寄せ、また一つ呻いた。
 やめてくれ。
 臨也は時々こうして誰かに請う。全ては夢の中の話で、寝言だ。事実、臨也は朝になると何もかも忘れている。
 『何それ、俺が?聞き間違いか人違いじゃないの。やだーシズちゃん、寝言の人違いって浮気ってことー?』
 本当に一言余計な奴だと思う。それから俺は、臨也が就寝中に呻いていても。自覚がないのなら別にいいかと黙ることにした。
 
 やめて、許して。
 願いはとうとう許しに替わる。切なそうに苦しそうに臨也は呟く。もうずっとだ。起きている間はにやにやしていた臨也が、唇を震わせながら許しを請う。それは回数を重ねる毎に、酷く苦しそうになっている。
 臨也は昔から捻くれていて、今でもその性格は直っていない。趣味でやっている情報屋としての評判も薄暗く、恨まれる相手に心当たりがない訳ではない。謝罪すべき相手は、山程いる。
 ただ臨也はある一定期間遊んだ後は、すぐに飽きる。そして、飽きた相手の事は大抵数分後には忘れている。興味を失うのだ。
 つまりそんな醜悪な性格をしている男が、謝罪をしている姿は珍しいことだ。とても意識がある時ならば、有り得ない。

 ごめんね、もうしないから。
 臨也の閉じた目尻から、涙が一筋。俺はそれを拭い取る。
 謝るくらいなら、始めからしなきゃいいのに。こいつは馬鹿な奴だ。
 乱れた柔らかい黒髪をくしゃりと撫でて、少し汗ばんだ額を晒す。そうしてやるだけで、少し表情が和らいで、なんだか笑えた。
 そっと屈んで暗闇の中、淡い月の光に白く浮かび上がる小さな額に、口付けを落とす。
 臨也が、また一筋涙を零しながら呻いた。


 ごめんね、シズちゃん。
 
 
 素直じゃない奴だ、本当に。 
 俺も、お前も。もっと早くに素直になっていれば、良かったのにな。










      謝罪










フィーリング小話。
「夢の中で大人版と子供版がそれぞれすれ違う話」っていうのを書いてみたくって!
久々に文字打ったんで変な所はいっぱいあるぞぉきっと!
多分臨也が現静雄と付き合えて嬉しい気持ちと、過去に子供静雄にしてしまった罪の意識の間で悩んでいる内に、夢の中で子供静雄に会って…みたいな。解説しないといけない小説なんてつらい!まぁ皆さんの感じた通りに、受け取ってもらえたら!






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -