Complicated Couple
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「颯くん、この後暇じゃない?」
「みんなで遊びに行こうとしてるんだけど颯くんもおいでよ」
今日は3限終わりのせいか、みんなどこか浮き足立っている。
頭のてっぺんから足の先まで綺麗に手入れされた女性達に囲まれるのは嫌なわけではないが……、
僕には彼女がいる。
こんなところを見られたらヤキモチ焼きの彼女はきっと嫉妬して……あ、今その彼女と目が合った。綺麗な立ち居振る舞いでこちらに近付いてくる。
さて、今日は自分との約束があるでしょって可愛く睨まれるのだろうか。ほんと乙羽ってば可愛いんだから……
「あれ、颯今日は厳しい?じゃあ行く予定だったカフェにはまた今度行こうね」
「えっ」
ばいばい、と言って颯爽と去っていく彼女。
さっきまで頬を赤らめていた周りの女の子達が、心なしか同情するような目を向けてくるのが胸にしみる。
―――そう、僕の彼女は誰もが認めるほどにサバサバしている。
勿論可愛くヤキモチを焼かれたことなんて一度もない。
僕が女性陣に囲まれていてもあっけらかんとしていて、ひどい時は『楽しんでね』と微笑まれた。
確かに彼女の笑顔は魅力的で一瞬ドキッとしたけど、貴重な笑顔をあんな場面で使って欲しくなかった。
用があれば話し掛けられるけど、それ以外は近付きもされやしない。
メールも基本僕からで、返信は業務メールそのもの。
ちょっとした思いつきで僕からのコンタクトを一切絶ったことがあったけど、それから1ヶ月間彼女と話すことはなかった。
どうやら僕が怒っているのだと思ったらしい。むしろあと1日でも君と接触できない日が続くようだったら涙で枕を濡らしていただろう。
一回本気で不安になった時があって、『本当に僕のこと好き?』なんて女々しいことをつい聞いてしまった。
誰にでも対応がいい僕に対して過去のガールフレンド達が口にしていた言葉。漸くその気持ちがわかった気がする。いや、あの時の僕はそれ以上に不安だっただろうな。
そしてそんな僕をよそに乙羽が返した言葉は『好きじゃなかったら付き合わないよ』……であった。
バカ、なんでそんなこと聞くの?と近年稀に見る照れ笑いにまんまと絆された僕だったけど今思えばそれがどういう好きなのか疑わしいものだ。
なぜなら僕でさえ乙羽に出会って初めて、今まで付き合ってきた彼女達に抱いていた思いが全くの別物だったと気付いたのだから。
もし乙羽が僕に対して思う好きが恋愛感情ではなかったとしたら?
この先本当に愛すことのできる男が現れたとしたら?
そんなの絶対に嫌だ。
やっと運命だと思える女性に会うことができたのに。なんなら誓ってもいい、生涯君以上に大切にしたいと感じるようなことは何事に対してもないだろう。
試すようなことをして悪いと思ったけどわざと彼女の前で他の子と親しそうに話したこともあった。
しかし既にご覧になったように余計虚しくなるだけ。
さっきだって人生で初めて同情されたかもしれない。
よっぽど悲愴な顔つきだったのか、彼女達は気を遣って今日は遠慮してくれた。
そうとなれば、やることは一つ。
「乙羽!」
「颯……?」
彼女が去ってからちょっとしか経っていないのに、全然見当たらないから焦った。
相変わらず歩くのが速い。
僕といるときは歩調を合わしてくれるところとか好きだけど。
ん?普通は男が合わすものだよね?……あれ?
「どうしたの?息切らして」
「君を追いかけてきたんだよ!僕が約束を守らないようなことあった?」
「それはそうだけど……颯にも付き合いってものがあるじゃない?」
「……乙羽はどうしてそう物分かりが良すぎるんだ……」
最後は独白に近かった。どうやら聞き取れなかったらしく、不思議そうに小首を傾げている。可愛い。
さっきのセリフだって僕の負担にならないよう考え抜いた答えだったならいじらしいものだ。
しかし彼女は言うまでもなく本気でそう思ってさも当然のような瞳で訴えてくる。
普通だったら気遣いのできる素晴らしい彼女だと拍手を送るべきなのかもしれない。
こんな非の打ち所がない彼女と付き合っていながらこんなこと思う僕は贅沢者なのだろう。
だけど、僕は……
一度でいいから嫉妬した彼女を見てみたい!全身で愛を実感したい!!
しかし、こんなこと口が裂けても言えないのもまた事実。
だって真顔で『は?何言ってるの?』なんて言われてみな?
立ち直れないどころか生きてく自信がなくなる。大袈裟だって?そんなことはない。それだけ僕は彼女を愛してるってこと。
あ、想像しただけでも涙出てきそうだよストップ涙腺今泣いたら完全やばいやつ!!
「?颯どうしたの?」
「……っ!な、んでもない。カフェ、行こう」
ふう、なんとか堪えた。
それにしても乙羽はなんでこんなに可愛いんだろう。
彼女の性格そのままを表すように真っ直ぐなダークブラウンの髪、ぱっちり二重の涼しげな瞳、品を感じさせる鼻と口。
いくらだって見ていられる。……かといって男とすれ違う度視線を向けられるのは最悪な気分だけど。目潰ししてやりたい。
と、そんなどす黒い感情も彼女を前にしたら綺麗さっぱり浄化されるのである。
ああ、本当に乙羽はなんでこんなに―――……
「颯、さっきから何にやけてるの?少し気持ち悪いよ」
うん、ちょっぴり泣いた。
to be continued?
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