Secret Twins | ナノ

Secret Twins
美麗双子の正体は?

もし、時間を巻き戻せるのなら───間違いなく『あの日』に戻るだろう。


───ピンポーン。

いたって普通の住宅街にある、どこにでもあるような一戸建て。
私は今、そんな家の前に立ちインターホンを鳴らしている。
左手にはバカでかいキャリーケース。背中には登山に行けそうなリュックサック。
なんでこんな大荷物を抱えているかというと……

羅々ららちゃん!いらっしゃい」
「疲れたでしょ?ほら上がって上がって」
「……お世話になります」

今日からしばらくの間この家で暮らすことになるからだ。
何も家出したわけじゃない。……いや、まあ自分の家を出たという意味では家出だが、親と大喧嘩したわけでも勘当されたわけでもない。

「それにしても大変だったね。お父さんの会社が倒産だなんて……」
「次の働き先は見つかったの?」
「いえ、まだ……」

そう、父親が職を失ったのだ。
雇用先を見つける間もなく倒産とか、どんなブラック企業だよ。
勿論今までのように暮らすのは難しくなり、早々と家を売却、父母揃って仕事探しの旅。
私も学校を辞めて仕事を探すと言ったのだが、子想いの親が許すはずもなく。
良い仕事が見つかり安定するまでとりあえず私を預けれるところを探していた時───この家へと白羽の矢が立ったのだ。

「……そっか。でも大丈夫だよ!ここには好きなだけいていいから」
「ありがとうございます」
「もう堅苦しいなあ。僕達の方が年下なんだし、もっと気楽にして?」
「ほら荷物頂戴!羅々ちゃんの部屋はこっちだよ〜」

目前で眩しいほどの笑みを浮かべる男の子二人は双子だ。
しかも一卵性双生児で、綺麗な顔は瓜二つ。久しぶりに会ったということもありぱっと見見分けがつかない。
このままだと名前を呼び間違えて悲しい顔をさせてしまうので、全力で見分けられるようにならなくては。

この美麗双子とは、遠い親戚にあたる。
どれくらい遠いのかというと、説明するのも億劫になるくらい……というか最早把握できないレベルなので、血は繋がっていないにも等しい。
最後に会ったのは正月の集まり。
1年に2回会えばマシなくらいの脆すぎる間柄なのだが、何故この度ご厄介になることになったのか。
それは単に部屋が余っていたかららしい。
父の倒産話は瞬く間に親戚中に知れ渡った。
私がどこかのご家庭にお邪魔しなくてはいけないことは既に確定済みだったので、親戚会議にかけられたのだ。
といっても、お父さんの善良な性格のおかげで邪険に扱われるようなことはなかった。
問題はどこの家庭も子持ちで部屋が余っていないこと。
そして偶々この双子の親が海外で単身赴任していて部屋が余っていたらしく、満場一致で居候先が決まった。

「はい!ここが羅々ちゃんの部屋ね〜」
「こっちが僕の部屋」
「こっちが僕」

『Rara』と書かれた札がかけられてる部屋の前に案内される。
右隣には『Jun』、左隣には『Sui』と書かれていた。
まさかの私の部屋が真ん中……なんとなく気まずいような……。
そう思ってしまうのは、やはり心の中に拭いきれない罪悪感があるからだ。
いきなりこんな知人以下の女が自分達のテリトリーに入るのだ、思うことはあるだろう。
二人の笑みを見る限り歓迎はされてるみたいだけど……。

「え、と……今更なんだけど、二人は良かったの?私なんかがお邪魔しちゃって……」

思わず口から出てしまった。
こんなこと聞いても意味はない、困らせるだけだってわかってる。
直接二人の否定の言葉を聞いて安心したかっただけかもしれない。
ギュ、とスカートの裾を握りしめていると、次の瞬間感じたのは二つの温かい感触と柔らかな声だった。

「何言ってるの?羅々ちゃんは僕達にとってお姉ちゃんも同然だよ」
「そうそう、それに父さんのいない家を二人で使うのは寂しすぎるし」
「私なんか、なんて言わないで?」
「羅々ちゃんが来てくれてすっごく嬉しいよ?」
「「改めて、我が家へようこそ!羅々ちゃん」」

その時感じた二人の温もりは一生忘れないと思う。
───否、忘れたくても忘れられない。
間違いなく、引き返すチャンスはその時しかなかった。
しかしこの時の私は、『純粋』なんて名前通りの美麗双子に、裏の顔があるなんて知る由もなかったのだ。

◆◇◆

居候生活がスタートしてから、早1週間が経った。
現在高2の2学期半ば。ちなみに双子は1個下なので高1だ。
新しい学校の制服も届き、クラスにも馴染めてきた……と思う。
転入初日はそれはもう大変だった。
純と粋は相当な人気を誇るみたいで、男女問わず質問攻めだった。
普段の二人の様子や好きな食べ物、休日の過ごし方など───明らか本人に聞いた方が早い質問をエンドレス。
どうやら二人は意外とミステリアスらしい。いつもあんなに人懐っこい笑みを浮かべているのに。
もしかしたら、それは私のことを姉のように慕ってくれているからで、学校では違う表情を見せているのかもしれない。
といっても私は本当の姉ではないし、会う頻度も年1、2とゴミカスレベルだったので皆の質問には答えられなかったが。
まだ近所のおばさんの方が彼等に詳しいだろう。それこそ私の方が皆に彼等のことを聞きたいくらいだ。

……と、その時は思ったのだが、1週間経った今では驚くほど彼等のプロフィールが埋まっていた。
というのも、どうやら私達は滅茶苦茶気が合うらしい。

「趣味とかある?」
「んー映画鑑賞とか?」
「特に洋画が好きかな」
「えっ、私も洋画好き」
「そうなんだ!じゃあ今度一緒に観に行こうね」

「羅々ちゃん、晩御飯親子丼でいい?」
「えっ、私作るよ!」
「いいのいいの。おもてなしさせてよ」
「そうそう。腕には自信あるから。それより親子丼嫌いじゃなかった?」
「う、うん。大好物だけど……」
「良かった。僕達も一番好きなんだ」

「はい、これ羅々ちゃんの鍵ね」
「わ、ありがとう。……あれ?このキーホルダー」
「ああそれ、羅々ちゃんの趣味わからなかったからとりあえず僕達が好きなキャラクターの買っちゃった」
「今度別の買いに行こうね」
「あっ、いや、大好きなキャラだから超嬉しいけど……」

てな感じに好きな物がだだ被り。
寧ろ私達本当は三つ子なんじゃ?ってくらい。
……なんてね。さすがにそれは錯覚だ。
私は二人みたいな丁寧な顔の造りはしていない。
けれど本当、顔の造り以外はびっくりするほど似ていたのだ。
双子特有のシンパシーがあるのはよく聞く話だ。
だけどまさか私まで共有するとは思わなかった。
お腹が空くタイミングや眠くなる時間が同じだったり、1日に3回はハモったりなど……いや、本当三つ子かって突っ込みたくなる。
まだ1週間しか過ごしていないのにそんな気がしない。
もうずっと前から一緒に暮らしていたみたいだ。
歯ブラシはみんな同じ色が好きで被っちゃうからわざわざ名前書いたし、洗濯物を干している時に私が持ってる洋服と全く同じ柄のサイズ違いを発見したこともある。

うわーこんなこともあるんだなーなんてその時は感じてたな。
それこそ運命だと思ったかもしれない。
勝手に本当の家族になれた気でいたんだ。


異変を感じ始めたのはさらに1ヶ月経ったくらい。
異変といっても些細なものだ。
私は根っからの貧乏性でずっと同じ物を使い続けるタイプだ。
しかし最近やけに私物がまるで新品のように感じる。
例えば、シャーペン。
使い過ぎたせいでシャー芯の出が若干悪かったのだが、ある日を境にとても出やすくなった。
その時は異変どころか『ラッキー』と思っただけで終わった。

あれ?と思ったのはマグカップかな。
いつの間にかできたキズがいつの間にか消えていた。
まあ小さいキズだったし気のせいかなと思ったっけ。

そして極め付けは歯ブラシ。
歯ブラシは長く使っていると毛の部分が横に広がってしまうので消耗品の筆頭だ。
これもそろそろ替えなきゃな〜と思ってた矢先、なんとピカピカの新品になっていたのだ。
さすがにこれには気付いたので、双子に聞いてみた。

「純か粋、新しい歯ブラシ買ってくれた?丁度替えようと思ってたんだよね、ありがとう」

……といっても、あの時の私は正しい意味で『異変』を感じ取っていたわけではなかったので呑気にお礼を言っただけだ。
しかしその時、不自然にピシリと固まった双子に疑問を持ったのも事実。

「へえ。気付いたんだね。なんとなく内緒にしちゃった」
「あは、変なの。言ってくれればいいのに。もし気付かなかったらお礼言えないじゃん」
「……うん、そうだね。でもなんかサプライズみたいで楽しいからさ」
「……もしかして他にも気付いたやつある?」
「え?他にも?……そうだなぁ、シャーペンとかマグカップは新しくなった気がしたような……え、なにもしかして」
「いや、それは知らないな。気のせいじゃない?」
「だよね〜。我ながら幸せな脳してるわ〜」

うん、本当に私ってば呑気だった。
普通この会話の時点で可笑しく思うよね。
だけど綺麗ににっこりと笑う双子を疑うなんて気持ちは微塵も起こらず。
そのまま私の生活は平和に過ぎていく───筈だった。


その日の夜、事は起こった。
夜中にパチリと目が覚めて、喉の渇きを覚えたため少々面倒ながらもキッチンへ向かうことにした。
するとぼんやりとリビングに灯りがついていて、話し声もするため二人も喉が渇いて下りてきたのかなと思う。
さすが三つ子シンパシー。こんな夜中に同じタイミングで喉が渇くなんて……と、妙に舞い上がってしまったため夜中にあるまじきハイテンションで声をかけようとした。
───が、刹那。

「羅々ちゃんの歯ブラシ盗ったの純だろ」

そんな低い声が聞こえてきたため、今まさにドアを開こうとしていた手を止める。
……ん?『とった』?『買った』ではなく?
『とった』って……もしかして『盗った』ってこと?
え……いやまさか……なんて脳内では否定しているのに、凍りついたようにドアノブから手が離せない。
戸惑ってる間にもどんどん展開していく二人の会話。

「それを言うなら粋だって。シャーペン?マグカップ?聞いてないけど?」
「いいじゃんそれくらいセーフでしょ。でも間違いなく歯ブラシはアウト。事前申請を所望する」
「いやいや、僕より多く盗っておいてよく言うよ」
「……ふーん。そっちが数を出してくるなら言うけどさ、この前羅々ちゃんのハンカチ洗ってる時気付いたんだよね。以前付いてたシミが消えてるなーって」
「……ッ、」
「まあすーっごく小ちゃかったから傍目には気付かないと思うけどね?」
「チッ」

え、全然気付かなかった。シミなんてあったの。
え、ていうかどのハンカチ?
え、ていうか君達何言ってんの?
え、ていうか───ガチャ。

「「ッ!」」

瞬間、さっきまで言い合ってた双子が何かに反応して口を閉じた。
何かに───って間違いなく原因私だよね!
動揺し過ぎてドアノブから手ぇ離しちゃった拍子に鳴った音に反応したよね!!

「……羅々ちゃん?」
「そこにいるの?」

ひ、ひいいいいいい!!!
これもしかしなくてもヤバイ状況!?
絶対私が聞いちゃいけない内容だったよね!?

幸いドアは開いておらず、あっちからは私の姿は見えていない。
……だよね?見えてないよね!?透視能力とかない筈だよね!?
なのになんだろうこの緊迫感。
二人の会話を聞いた時から鳴り止まない心臓の音。
ドッドッドッドッと力強くもリズミカルなそれは和太鼓選手権で優勝を獲れるレベルだ。

「いるなら出ておいで?」
「喉が渇いちゃったのかな?」
「───ッ!」

気付いたら、自分のベッドにいた。
布団を頭から被り、身体を丸めて只管震える。
え、待って、何が起こった?
二人は何を話していた?
私は何を聞いた?
今胸中を占めるのは驚愕、困惑、不安───そして恐怖。
とりあえず息はできてる。生きてる。よし。
……寝よう。
そうだそれが一番だ。
ていうかほら?今だって夢の中かもしれないし?
起きたらいつもの平和な日常に戻るだろうし?
というには余りにもリアルな感情と噴き出る冷や汗が若干気になるけど……うん、大丈夫。
何が大丈夫か一欠片もわからないけど大丈夫だ。寝よう。

その後───どうやら私は鉄の心臓を持っていたみたいで、何事もなかったかのようにぐっすり眠れた。
なーんだやっぱり夢だったんじゃん☆
起きてリビングに行ったら二人の輝く笑顔に迎えられ?木漏れ日のような爽やかな声でおはようと───

「おはよう。昨日はよく眠れた?」
「おはよう!それはもうぐっすりと───」
「ところで夜中、リビングの前にいたりした?」

あは☆夢じゃなかった☆

……どうやらこの居候生活、前途多難なようです。


to be continued?



ストーカー双子の裏工作

3年前
「「海外で暮らしたい!」」
「え、でも仕事が……」
「「海外で暮らしたい!!」」
「……っ、わかった。海外の支社に異動できないか聞いてみるよ!」

1年前
「さあ可愛い息子達!ついに異動願いが通ったよ!来月から晴れて海外暮らしに……」
「え?父さん何言ってるの?」
「僕達日本から離れるつもりないよ?」
「え、でも前に……」
「ああそんな昔の話本気にしたの?」
「僕達小ちゃかったしねぇ」
「え、でももう取り消しできな……」
「そっか……残念だけど」
「仕方ないね。心配しないで、」
「「僕達良い子でお留守番してるから」」

1ヶ月前
「あーやっとここまで来た」
「あとはこの情報をライバル会社にリークすれば倒産確定……」
「長かったねぇ。もう高1かぁ」
「うん。でもこれでやっと」
「羅々ちゃんと暮らせる」
「「これからは毎日一緒だね……ふふふ……」」

居候スタート☆

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