He wants to talk

「シャーレ、次のターゲットだ」

夜、組織に呼び出された先で渡された写真。
プラチナブロンドの髪にアイスブルーの瞳。
笑っているのに、その瞳はどこか寂しそう。
そこには『儚げ』といった印象の少年が写っていた。

「誰ですか?」
「エノシェント王国第二王子、ミウロ・エノシェントだ」
「王子ですか……」

王子様の殺しの依頼が来るとは。
さすが、殺しならなんでも引き受けるこの組織らしい。
それにしてもこの国の王子様を殺せだなんて罰当たりな。

「まあ、王子といっても妾の子らしいがな。このままいったら第一王子が即位するのは間違いないだろうに、目障りだから始末してほしいのだと」
「へぇ、第一王子の依頼ですか……」

なるほどね、罰当たり以前に依頼者は同じ王子様ってことか。
まあ今の話だけでも事情が複雑そうだし、細かいことは気にしない方が賢明だろう。
ん?待てよ?王子様の依頼ってことは……

「あの、報奨金は……?」
「勿論がっぽりだ」
「今すぐ殺しにいってきます」

瞬時にやる気に満ち溢れた私は、満月の夜を駆けるのであった――――。

◆◇◆

人を殺すことには何も感じない。
物心がついた頃にはもうあの組織にいたし、言葉を覚える前に殺し方を学ばされた。
そんな私はこの先一生誰かを殺すことでしか生きられないと思うし、別にそんな人生に不満があるわけでもない。
そう、金さえ貰えればいいのだ。
今までいろんな人間を見てきたが、この世界は金がある奴を贔屓しているらしい。
金のない奴は価値がないと判断され、無慈悲に淘汰されていく。
私はそんなの御免だ。
生きたいように生き、その過程では何の苦労もしたくない。
そしてその為には金がいる。
私はどうやら浪費癖があるらしく、殺しても殺しても金は溜まらない。
しかし、今回の依頼――――報奨金は3000ウェル。
これは城一個建てれるほどの大金だ。
こんだけあれば一生……とまではいかなくても10年くらいは働かずとも贅沢な暮らしができるだろう。

◆◇◆

「抵抗したら即殺します。あなたはミウロ・エノシェントで間違いないですか?」

丁度バルコニーに出ていた写真の少年らしき人物の首に後ろからナイフを当てがう。
まあ多分この人で間違いないと思うけど、一応ね。
プロの殺し屋としてのプライドがないわけではないので、無駄な殺生はしたくない。というか金が発生しない殺しなんて無駄でしかない。

セキュリティは王子様のくせにガバガバだった。
やはりボスの言っていた通り妾の子だから疎ましがられているのだろう。
罪もないのに“第二王子”というだけで殺されてしまうのは憐れに思うが、私には関係ないことだ。
私は金さえ手に入ればそれでいい。

「……君は誰?」
「私が誰であろうと関係ありません。質問に答えてください」
「いやいや、僕に名乗らせたいのならまずは君からどうぞ!」
「……」

このガキ……と自分と大して年齢は変わらないだろう王子様に辟易する。
無駄に口が回るようだ。
なんかもう面倒だし殺してしまおうか。
こんな綺麗なプラチナブロンドの髪の持ち主が他にいるとは思えないし、別にいいだろう。

「ちなみにこの髪の色を持っている男児はこの城に3人います」
「…………シャーレ」

チッ、いるのかよ。
仕方ないからお望み通り名前を教えると、何故か王子様は興奮した様子で喋り出した。

「え!?あの有名な殺し屋シャーレ!?次はどんな人が殺しにくるんだろうって思ってたけど……まさかシャーレがこんな可愛い女の子だったなんて!」
「ちょっ、」

私の隙をついてスルリと拘束から抜け出た王子様。
未だナイフの切っ先はそちらに向けているのに、キラキラってレベルじゃないほど瞳を輝かせている。

あれ……?なんか思ってたのと違うんだけど。
写真の中の寂しそうな瞳はどこ行った??

「……それで、あなたはミウロ・エノシェントで間違いないですか?」

とりあえず早く殺そう。うん、それが一番だ。
ペチャクチャ煩いなと思ったが死んだら否が応でも静かになるだろう。

「正解!この髪の色は他にもいるけど、こんな薄い水色の瞳は僕だけ」
「そうですか」

クソ、いいように扱われたな。
確かに先程は髪の色についてしか言っていなかったから、この王子様の言葉は間違ってはいない。見た目によらず案外策士のようだ。

「では殺します」
「っ、ちょっと待って!」

ナイフを持ち替えて一気に振り下ろそうとすると、すんでのところで待ったがかかる。
……私はその時、気にせず殺せばよかっただろうに何故かピタリと止まってしまった。

「……なんですか。抵抗しても無駄ですよ」
「そうじゃなくて!……ねえ君、僕の話し相手になってよ!」
「…………は?」

何言ってんのこいつ。
どう見ても頭がおかしいとしか思えない。
普通自分を殺しにきた相手に話し相手など頼むだろうか。
……否、頼まない。
怯える風でもなく、相変わらず瞳は輝いたままだ。
うん、おそらく城に引きこもりすぎておかしくなってしまったのだろう。そう思うことにした。

「なりません。私はあなたを殺しにきただけなので」
「だって僕……第二王子だからってお兄様からは疎ましがられるし、妾の子だから友達もいない……僕、寂しいんだ……」
「私には関係ありません」
「ちぇ、同情作戦はダメか」

変わり身の早さ。
なんだこの王子様、何がしたいんだ。とりあえず早く殺したいんだけど。
それで報奨金たんまり貰ってまずは家にプールなんか作っちゃったりして好きなだけ美味しいもの食べてふかふかベッドで眠りたい。
うん、最高な人生プラン。

「……そろそろ護衛が来る頃ですね。ではさようなら」
「それなら!君が僕を殺す目的はなんだい?」
「金」
「よしわかった、僕の話し相手になってくれたらその報奨金の5倍支払おう」

え、そしたらそれこそ一生遊んで暮らせるじゃん。最高かよ。

「引き受けましょう」

さっき変わり身の早さとか突っ込んだのは誰だとか言わないでくれよ?
金は何より大事なのだ。


それが、私と彼―――話したがりの王子様との出会いだった。
私は後に、このデタラメな王子様について悩まされることとなる。
……というのは、まだ誰も知らない話。

to be continued?


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