キミのおこした奇跡side S


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キスは挨拶!


「ユウサク、ユキコ!今日はありがとう!」
「いいえ、楽しんでもらえたかしら?」
「もちろん!シンイチのガールフレンドにも会えたしね!」



だから違うって言ってんだろーが!
とは思っても「ムキになっちゃって〜」とか言われるのがオチだから止めた。


「キミッ!」


その声に振り向くと、さっきあおいに話しかけてた人がまた話しかけていた。


「え?」
「キミに大いなる主の恩恵を!」
「………き、ききききき」
「うん?どうかしたかい?」
「キスしたーーー!!この人私にキスしたーー!!」


…今のそんなに騒ぐようなことか?


「でもねあおいちゃん、ここだとキスは挨拶だから…」
「そんな挨拶嫌ですーー!!!」


頬に手を当てて、顔真っ赤にしながらあおいは叫んでた。
あ、コイツ涙ぐんでる。


「別に口にしたわけじゃねーんだろ?いちいち騒ぐんじゃねーよ」
「信じられない!!乙女のほっぺにちゅうしておいてその言い草は何っ!?」
「俺がしたんじゃねーだろーがっ!!!」
「…っ優作さんっ!!!」
「先にやられてしまったが、こういう挨拶もあるということを知っておくのも悪くないと思うがね」


人って、パニックになるとこんな顔すんだなぁ、とか。
すっげぇ他人事に考えていた。


「もう!あおいちゃんてばほっぺにキスくらいで真っ赤になって可愛いんだから!」


両頬を押さえながら、唸ってるあおいと目があった。


「く、工藤くんは近寄らないでっ!!工藤くんにまで襲われたら私っ!!」
「近寄んねぇし、襲う気も起きねーから安心しろっ!」


誰が襲うかバーロォ!


「ま、まぁまぁ、ほっぺにキスなんてこっちじゃよくあることよ?」


ほんとにその通りだ。


「キスは挨拶。海外行ったらそれくらいフツーだろ?」
「…工藤くんがそんな汚らわしい人だったなんてっ!!」
「なんの話だ!?」
「いひゃいいひゃいいひゃい!」
「だいたいなぁ、オメーなんかにキスして挨拶してやろーっていう奇特なヤツがいるんだってありがたく思えよ」
「れ、れもわらひのほっひぇ…」
「減りゃしねーだろ!…いやむしろこの伸びを減らした方がいいのか?」
「いひゃいっ!」
「つーかオメーこっち来て太ったんじゃねーか?摘める量が変わった気がすんだけど」
「ひょんなこひょないっ!!」
「いやー、よく考えたらオメー食ってばっかいたもんな。どーすんだよ、その身長でデブになったら」
「にゃんにゃいにょ!!」
「…いや、何言ってんのかわかんねーし」


あ、今度は青くなった。
やっぱりこっち来てから太ったって本人も自覚あんじゃねぇかよ!


「ま、帰ったら頑張れダイエット」
「…工藤くんも横に伸びたよ」
「伸びてねーよっ!」
「嘘だ!ここに肉がっ!!」
「いってぇな!腹つねるんじゃねーよっ!!」
「ほら!つねれる肉がついてるじゃないっ!!」
「誰でも多少はつねれるだろーがっ!!」
「嘘!!夏に裸見たときつねれそうな肉なかったもんっ!!」
「はあ!?あんなパッと」
「やだっ!新ちゃんの裸見たって何っ!!?」
「そうか、新一が…。息子が自分より早いというのも少し複雑だな…」
「なんの話だっ!?コイツ、俺が風呂に入ってるときに乗り込んできて」
「きゃーーっ!あおいちゃんてば積極的なんだからっ!!」
「中1で一緒に風呂…。やはり複雑だな…」
「それで!?それで!?お風呂入って何したの!?」
「違うんです。本当に見たくも無い粗末な」
「だから粗末って言うなって言っただろーがっ!!!話がややこしくなるからオメー喋るんじゃねーよっ!!!!」
「いったーーいっ!!!」
「「新一っ!!!」」


思わずあおいの後頭部をグーで殴ったら、父さんと母さんが同時に叫んできた。
俺のせいじゃねーっての!
それからしばらく玄関先でギャーギャー騒いでた。
誤解が解けたのか解けてねぇのかわかんねーけど、明日帰国って日。
部屋であおいと2人荷造りをしていた。


「ほんっと、楽しかった!」
「良かったな」
「うん!工藤くんもありがとう!!」


いやオメー、俺にマジで感謝しろって言いかけたけど止めた。


「今度はいつになるかわかんないけど、お金貯めてまた絶対来るんだ!」


フツーの会話。
遊びてぇなら自分で金貯めるのは当たり前のこと。
でも俺たちまだ中学生じゃねーか。
ロス来れるほど金貯まるっていつの話だ。


「べっつに休みのたびに来りゃいーじゃねぇか」
「え?」
「父さんも母さんもオメーが来てぇって言うなら喜んで招待すると思うぜ?」


あおいは驚いた顔をした後、どこか複雑そうに笑った。
俺はやっぱり「恵まれてる人間」だと思う。
だから正直な話、コイツがこういう場面で気を遣うその本心がわからなかったりする。
あおいはバカだし、何考えてるかわっかんねーし。
そもそもなんも考えてねぇってことも十分にあり得るようなヤツ。
それでも、コイツにこういう顔はさせたくねぇんだよなぁ、とか。
そんなこと思いながら荷造りしていた。

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