Clover


≫Clap ≫Top

戸惑い


いつか


「あら、目が覚めた?」
「…こ、ここは?」
「保健室!工藤は階段から落ちて倒れたの!」


そう言われて見ると保健室特有の消毒液の臭い。
ああ、そう言えば私顔を上げた瞬間、眩暈が


「!?」


ガバッと起き上がる。
意識を失う直前、腹部にあったあの痛みって!


「ああ、それ?シーツが汚れるから応急処置」
「て、ことは、やっぱり」
「ダイエットも良いけど貧血起こすほどしちゃダメ!過度のダイエットは生理も」
「早希子ーーー!!!」


ガラッ!!と、勢い良く保健室の扉が開いた。


「階段から落ちたって何やってんだよっ!俺たちの子ど」
「お前が何やってるんだ、黒羽!ここは保健室!彼女は怪我人!叫ぶな、喧しい!!」
「喧しいだと!?誰だって叫ぶだろ!!?」
「快斗」
「自分の彼女が階段から落ちたんだぞっ!?」
「快斗、」
「俺たちの子供になんかあったらどーしてくれるっ!!?」
「はあ…?」
「快斗!」


物凄い勢いの快斗の腕を掴んで止めた。


「…工藤、そんなこと心配するハメになるから過度なダイエットは」
「わかってます、しません」
「は?ダイエット?」
「黒羽、お前も!ヤりたい衝動を抑えられないのはわからなくもないけど、まだ高校生なんだからそんな心配しなきゃいけないようなセックスはしない!」
「…へ?」
「以後気をつけます」
「どこかが特に痛いとかは?」
「…強いて言うなら生理痛が痛いくらいで」
「…はっ!?生理痛!?」
「彼女はただの風邪と生理不順!貧血は過度のダイエットのせい!階段登ってる最中に眩暈起こして落ちたけど奇跡的に打ち身だけで済んだってこと!」
「た、ただの風邪と生理不順ーー!!?」


快斗がここまで驚いた顔するのっていつぶりだろう。
いや、もしかしたら初めて?


「おま、ダイエットって何!?」
「え!?い、いやー、なんていうか、今年は1度でいいから海に行きたいなぁ…とか、思、って…」
「海行きてぇだぁ!?だからってなんでダイエットしてんだよっ!!痩せるとこなんかねぇだろ!?胸抉れたらどーすんだよっ!!?」
「抉れないよ!…あと2センチはウエスト締めたいなぁ、って」
「腹筋しろ腹筋っ!!なんなら今から俺がコーチしてやっから腹筋しろっ!」
「ほ、ほら、私、腹筋、っていうか運動嫌いだし?」


ぱちん、と快斗が右手で両目を覆った音がした。
ああ、今快斗の中でさまざまな感情が入り乱れてるわ…!


「で、でも、ごめんね。まさか私もただの生理不順っていうオチだとは思わずに」
「…」
「なんていうかほんとに、」
「はぁぁぁぁぁぁ…」


快斗が盛大にため息をついて、その場にしゃがみこんだ。


「か、快斗?」
「もー、マジでびびったんだぜっ!?青子が血相変えて早希子が階段から落ちたって言ってきて!」
「ご、ごめん?」
「安定期どころかできたばっかだろうから絶対ヤバイって思ってほんっとビビッて」
「うん、ごめん…」
「なんだよ、ただの生理不順かよ…」
「ごめんなさい…」


そこまで言うともう1度快斗が大きくため息を吐いた。
なんかもうほんとにいたたまれない…。


「はぁぁぁ…」
「ほ、ほんとにごめんね…」
「…いや。で、オメー怪我は?」
「あ、うん、ちょっと打ち身で痛いくらい?」
「…ま、オメーが大したことねぇならいーや」


もう1度小さく息を吐いた快斗はいつものように私の頭を撫でた。


「ほんとにごめんね」
「あー、もういーって!」
「でも、」
「あん?」
「…嬉しかったよ。昨日の言葉も、今来てくれたことも」
「…」
「ほんとにありがとう」
「…早希子」
「うん?」
「いっそここでほんとに作るか?」
「え?」
「今度こそ計画的にってーーーなっ!!なにすんだよっ!!!」
「お前が何してるんだ、黒羽!!ここは保健室!!お前の部屋じゃないんだっ!!」
「仕方ねぇ、休憩1時間2000円でどうだっ!?」
「今すぐ出ていけーーー!!!」


当たり前だけど、つまみ出された…。
まぁ…ただの貧血と打ち身だからいいんだけど。


「いーじゃねぇかよ、ケチくせぇ!!ずっと使ってるってわけじゃねーんだから1時間くらい貸せってんだっ!!」
「いや、普通に無理だって…」


仮に無理じゃなかったとしも、私今生理中だし…。


「あーあ、親子でうさぎさんの俺の夢はまだまだ先かー」


そう言って後ろから私を抱きしめ寄りかかってくる快斗。


「快斗ここ学校…」
「んー…。俺うさぎさんになった早希子似の女の子から『パパだいしゅきー!』って言われるんじゃねぇかって昨日の夜からソワソワしてたんだけど!」
「だから男の子の可能性もあるんだからね…」
「早希子似の男の子ならオスカルにすらなれるっ!!」
「あんな顔の濃い息子は嫌なんだけど…」


しかもオスカルって男装…。


「…ま、焦らなくてもいつか、な」
「…うん」


どうしようって、不安になったり、怖くなったりしたけど。
ここにまだいなかったらいなかったで、寂しい気もするから、不思議。
いつか本当に、そんな日が来たら、その時はもっと、今より受け入れられる自分でありたい。
そう思って大きく深呼吸。
目の前には、優しく笑う快斗が、手を差し出してくれている。
その手をゆっくりと取って、昨日とは違う気持ちで、新しい一歩を踏み出した。

.

prev next


bkm

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -