Clover


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2度目のバースデー


「ハッピーエンド」のその先


「その言葉に嘘偽りはねーんだな?」


工藤家に戻ってきて、よく聞いたら新一朝ごはんがまだらしく。
新一の分の朝ごはんと2人分のコーヒーを入れてリビングテーブルに座った。
…途端に誘導尋問が始まった。
でもさすがに今回のことを新一に話そうものなら、快斗間違いなく明日の朝には刑務所行きが確定するわ…。


「だからほんとに普通に遊びに来ただけだって!」
「…それが信じらんねーんだよなぁ…」
「なんでそう思うの?」
「だってよ、今日何日だ?」
「…5月3日だけど?」
「そう。俺たちの誕生日前日の5月3日。…あの男なら前日からバカ騒ぎしてそー」


あながち否定できない…。


「明日は学校の子たちとキャンプだし、快斗その準備でもしてるんじゃない?」
「んー…」
「第一、私たちそんなに四六時中一緒にいないよ?」
「いや、」
「うん?」
「早希子がいるつもりなくても、アイツは四六時中つけ狙ってるに違いない。あの変態ならそれくらいする」


新一の快斗に対する認識については、もうツッコまないことにしてる。


「でもさー、」
「あん?」
「お兄ちゃん今年はよく誕生日覚えてたね?」
「あー…、まぁ…」
「うん?」
「…つ、つきあって初めての誕生日だからって、蘭が騒いでんだよっ」
「…………そっか。楽しいといいね、明日」
「…おー」


顔を赤くしながら答える新一を見る限り、まだまだ初々しさがある。
…私快斗とこんな時期あったっけ?
そんなこと考えながら片付けを済ませ工藤家玄関前に立った時。


「早希子オメーさ、」
「うん?」
「一緒に行くか?明日。トロピカルランドに」
「……はっ!?」
「いや…、まぁ…、オメーがなんもねぇって言うならねぇんだろうけどさ。…でもまぁもし良かったら、っつーか…」


結局。
新一は、…お兄ちゃんは、なんでもお見通し、ってことだ。


「ほんとに大丈夫だから、蘭と楽しんで来なよ」
「…ならいーけど。無理すんなよ?」
「してないって!」
「オメーができねぇなら俺が責任持ってあんニャロォ蹴り殺してやっからいつでも言え。なんなら蘭にも手伝わせるし」


ほんと、新一も相変わらずだ。


「大丈夫!新一が心配するようなことは起こってないから」
「…そか。じゃあ気つけて帰れよ?…気が変わったら明日の朝でもいいから連絡」
「しないから!私も予定あるから大丈夫だって!」


最後まで新一は腑に落ちない顔をしていたけど、何が悲しくて誕生日に実の兄とその恋人のデートに1人で参加しないといけないんだ。
しかもつきあいはじめて初めての誕生日デート!
そんなものついて行ったら最後、蘭との友情が終わってしまうわ…。


「DVDでも借りて帰ろうかなぁ…」


兄のデートに参加するよりもよっぽど健全的な誕生日が過ごせる。
そう思い、マンションに帰る前にレンタルショップに寄る事にした。
いざDVDを借りようと思うと意外と見たいと思うものが次々と頭に浮かんでくるから不思議だ。


「いらっしゃいませー」


正直出遅れた、と思った。
そう言えばそうだよなぁ、って。
世間じゃGW。
最新作や話題作は全てレンタル中。
当たり前と言えば当たり前なんだけど。
なんか最近ついてないなぁ、とか、ため息吐きながら店内を回った。


「…これ…」


昔の洋画コーナーで見つけた1本のDVD。


−え?世界を超えて?−
−そー。生きてる人間と死んだ人間の恋愛を描いてんの。自分達の生きる世界を超えて恋に落ちるってヤツ。まぁラブコメっつーかファンタジーコメディだから全く深刻なヤツじゃねーんだけどな−
−ふぅん。そのタイトル聞いてもわかんないなぁ…−
−じゃあ今度一緒に見るか?−


前に快斗が言ってた映画。
あの後2人で探しに行ったけど古すぎたのかB級すぎたのか全然見つからなかったのに、今見つかるなんて。


−ふっるい映画だから今のSFX見慣れてたら雑な映画って思うかもしれねぇけど、話の内容的にオメー好きだと思うぜ?−


別に見たからってどうなるってわけじゃないんだけど。
他に借りたいものもなかったし、結局これ1本だけ借りてマンションに戻った。
少し早めにお風呂に入って、夕飯も食べて、後は寝るだけ!って格好でDVD鑑賞会を始めた。
ファンタジーコメディって言うだけあった、コメディを押し出したような設定。
だけどそんな中でも登場人物たちはそれぞれの恋に落ちる。
世界を超えて、生きてる人間ととうに死んでいる人間が恋に落ちるお話。


ピッ


映画を見終わって、電源を切る。
登場人物たちは皆、それぞれの恋を選んだ。
世界を超えてでも、貫いた恋を選んだ。


「でもそこでハッピー『エンド』じゃないんだけどね…」


どんなに大恋愛でも、たとえ一生に一度の恋って言われようとも、結ばれてはい、終わり。ってわけじゃない。
結ばれてからもいろいろ問題は起こるし、喧嘩だってする。
それは生きる世界を超えた大恋愛だったとしても、だ。


P.M11:47 3.May


室内にあるデジタル時計がゆっくりゆっくりと時を刻む。


−来年も、再来年も、ずっと俺が一番に祝ってやるよ−


そう言われたのは今から1年と15分前。
あれから快斗は電話もメールも寄越さない。
一昨日こそ、私が自分で携帯を切っていたっていうのもあったけど、昨日も今日も、快斗からは一度も連絡が来てなかった。
昨日は早退したせいもあって学校でも顔を合わせなかったし。
寂しいのか、悲しいのか、どちらの比率の方が大きいんだろう。
少しだけ窓が開いているカーテンが風で揺れている。
今日は満月。
空には大きな丸い月が浮かんでいる。
少し潤んだ目元を拭って、カーテンの隙間から漏れる月光に吸い寄せられるようにベランダに出た。

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