キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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巡る季節


引き締める


キリキリキリキリ

シュッ!


「さっすが、部長!ノーミスじゃないですか!」


それは意地と言われてしまえばそうだと思う。
だけど、あの目つきの悪い男と同じ土俵に立つなら優勝くらいしないといけない。


「一本逸れたな」
「どこが!?的中の範囲内でしょ!?自分に厳しすぎません!?」


だいたい出来過ぎじゃねぇのか、あの男。
ちょっと調べたら情報が出るわ出るわ。
父親が世界的有名な小説家。
母親が一斉を風靡した伝説の女優。
本人も父親譲りの頭脳で学業優秀、母親譲りの容姿で眉目秀麗、おまけにスポーツ万能!
小説家の息子として、元女優の息子として、何より同世代の中で群を抜いたスター選手のようにネット記事のところどころでアイツの名前を見ることが出来た。
絵に描いたような少年漫画の主人公を地で行くような男。
はっきり言って気に食わねぇ。


「たっでーまー」
「おっかえりー!」
「あれ?帰ってたの?」


ここ最近は体力と時間が許す限り練習をしている。
だから帰ってからメシ作るのめんどくせーとか思い始めた頃、お袋がどこかから帰ってきていた。


「快斗、相当頑張ってるらしいから、たまにはちゃんと母親業しないとねー」
「マジで!?俺今すっげー感動してるっ!!」


お袋はテーブルに所狭しと夕飯を並べてくれていた。


「全中終わるまではいてあげるから、頑張んなさい」
「…今すっげー、母さんの息子で良かったって思ってる」
「あら、あなたも随分と素直になったわねー」


あおいちゃんのお陰かしら、とお袋は笑う。
…それはまぁ、あるのかもしれない。
いつも真っ直ぐなあの子を見ていると、下手にごちゃごちゃと言うほうがバカらしく感じてくる。


「あおいちゃんと言えば、あの子おもしろいわねー!」
「え?」
「うん?」
「…おもしろいって、何?」
「あぁ、今日会ったのよ!たまにメールしてるの聞いてない?」
「…はぁぁぁぁぁ!?なんっだそれ!?いつ連絡先聞いたんだよっ!?」
「あら、あおいちゃんたら、快斗には内緒ねって言ったこと守ってくれてたのねー!」


ほんと素直な子、と上機嫌のお袋。
いやいやいやいやいやいや


「ちょっと待てって!なんで連絡先聞いてんの!?」
「だってあなたの友達だし、何かあった時のために知ってた方がいいでしょ?」
「いやいやいやいや、そんなことするような人間じゃねぇじゃねぇか!」
「あら私青子ちゃんともメル友だけど?」


そう言われてハッとした。
…そうだった。
この人はこういう人だった。


「だからお正月の時にあんたに内緒ねって言って連絡先教えてもらったのよ」


そう言って笑うお袋。
…嘘だろ。
約半年の間、お袋とあおいちゃん連絡取り合ってたのに気づかなかったのかよ…。


「それでこっち戻るってなったからあおいちゃんどうしてるかなー?って連絡して今日会ってきたのよ」


あおいちゃんもあおいちゃんだ。
お袋の連絡先聞いたなら言ってくれればいいものを。
…いや、「言わないで」と言われてそれを忠実に守ってるところが揺るがずあおいちゃんだよな…。


「あの子、私のこと『お母さん』て言うから、『あおいちゃんみたいな子がお母さんて呼んでくれて嬉しい』って言ったのよ」


あとでメールする時、お袋から聞いたって言葉も入れておこう。


「そしたら『すみません、私お母さんていうことしか知らなくて』って言ってね」


仮に名前知らなかったとしても、その言い方がすごいあおいちゃんらしい。


「え、名前言ってなかったっけ?」
「だから私もその時に気づいたの。そう言えばあなたも私のこと『母さん』や『お袋』って言ったし、私も『快斗の母です』って言った気したのよ」
「あー…」


確かにお袋の名前を言わなかった気はする。
…あれ、これ俺たちが悪いのか?


「まぁ今さら名前で呼ばれるのも、オバサンて言われるのもなーと思ってそのままお母さんで良いって言ってきたけど」
「うん」
「普通に名前聞いてくれれば教えるのに、あの子いきなり『ヒントください!』って言ってきて」
「ヒントって何!」
「でしょー?でも私当てます、みたいな目してたから最初は『ち』かなー?ってヒント出したけど」
「ぶはっ!母さんそんなこと言ったの!?ウケんだけど!」
「私も笑い堪えるの大変だったわよ!」
「それで当たった?」
「それがねー、『ちはる』『ちなつ』『ちあき』『ちふゆ』って順番に言うから春夏秋冬から離れてって言ってから名前出てこなくなっちゃって」
「あはははははー!」


あおいちゃんはほんといつでもあおいちゃんだ。
例え会ってなくても笑わせてくれるとかほんとすげー!


「あぁ、それと」
「うん?」


爆笑しすぎて涙出てきた俺にお袋が


「あの子、帝丹に内部進学するって」


そう言ってきた。


「まぁ…妥当だろうな」
「あら、もっとショック受けるかと思ったけど」
「べっつに学校が全てじゃねーし」
「そ?ま、がんばんなさい」


そう言って席を立ったお袋。
…そう、学校が全てじゃない。
それ以外であのヤローを上回ることをしなければいけない。
改めて自分の意識を引き締めた瞬間だった。

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bkm

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