キミのおこした奇跡ーAnother Blue


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Summer Vacation


同盟、同士


「で、でも気持ちわかるなー」
「うん?」
「ほ、ほら、さっきの、どうせ食べるなら、ってやつ」


最初注文した時は食べれるかどうかわからなくてメインだけ頼んだけど、ペロリと食べ終わった後、なんか甘いのでも食う?って話になって、食後のデザートを追加注文することにした。


「なになに、芳賀ちゃんも『どうせ食べるならイケメンと食べたい』って思ちゃった?」


スイーツが出てくるまでの待ち時間。
私の言葉に笑いながら頬づえついて黒羽くんが聞いてきた。


「イケメンていうか…、うん、まぁ、イケメンなら、うん」
「ぶはっ!芳賀ちゃん素直!」


本日初の爆笑を黒羽くんは見せてくれた。
いやだって黒羽くんも「可愛い女の子と」って言ってたじゃん!
それと同じだよ、なんて思ってもそこには触れずに話を続けた。


「そういうことじゃなくてさ、」
「うん?」
「1人で食べてると、誰かと一緒にご飯食べたいなーって思うこと、あるじゃん、」
「え?」


私の言葉に黒羽くんは笑うのをやめた。


「1人で、って?」
「うん?」
「親いるでしょ?芳賀ちゃんち」
「あー」


さっきの黒羽くんじゃないけど、今度は黒羽くんの言葉に私が唸った。


「う、うちさー、」
「うん」
「いないんだよねー、親」


これスイーツ待ちの時に言うネタじゃなかったと少しの後悔をしつつ、あははー、と笑って誤魔化すことにした。


「いない、って、何なんで?仕事とか?」


ですよねー、と思ったけど、やっぱり誤魔化しきることができなかった私に、黒羽くんはどこか驚いているような、それでもどこか真剣な眼差しを向けてきた。
…この話をする=嘘をつく、ってことだから、やっぱりちょっと、胸が痛む。


「うちも5年くらい前かなー、交通事故で、」
「…」


黒羽くんは本当に唖然とした顔をした。


「…答えたくないなら答えなくていいけど、」
「う、うん?」
「今までどうやってきて、今はどうしてんの?」


すごく真剣な目つきで聞いてくる黒羽くんに、工藤くんに伝えた時以上の罪悪感が襲ってきた気がした。


「ほ、ほら、親戚の家を転々と、っていう、ありきたりな奴だよ」
「…今は?」
「今は米花町の親戚のマンションに住んでるんだけど、そこの持ち主が転勤でいなくなってその部屋が空くからって1年くらい前からそこに1人で住んでるの」
「…」


私の話を聞いた黒羽くんは目を伏せ、どこか考え込むような仕草をした。
……胸が痛いなんてもんじゃない!
ごめんなさい、今のは全部嘘で実はここ私が生きてた世界で漫画になっている世界なんだけど、どうもうっかり事故ってトリップしてきちゃったみたいなだけで、元々私が生きてた世界ではうちの親健康だけが取り柄だからきっとピンピンしてます!!
…なんて言えるわけもないから、


「気、気にしないでね!私も気にしてないし、」


工藤くんに言った時と同じ言葉を黒羽くんに言うので精一杯だった。


「芳賀ちゃん、生活費とかどうしてんの?」


私の発言がよっぽど衝撃だったのか(そりゃそうだろうけどさ)明らかにスイーツ食べてる時の黒羽くんのテンションがそれまでとは違っていた。
…やっぱりこの話今出したの間違いだったな…。
黒羽くん優しいから気にしちゃってるんだ。
どうしようどうしようって思っていた時に、スイーツを食べ終わった黒羽くんが口を開いた。


「あ、あぁ、うん。親の遺産?があるから、」
「…」


黒羽くんは目を伏せまた何か考え事をしてるような素振りを見せた。
…あーーーやばいやばいやばい!
私のばかばかばか!
せっかくの初デートがこんな重苦しい空気になってどうしようどうしようどうやったら空気変わるのこれ、黒羽くん優しすぎだよどうしたらいいの


「決めた」
「え?」


私が脳内でうわーーん!てなってると、黒羽くんはテーブルの上に置いていた右手をグッと握りしめた口を開いた。


「俺これから毎日芳賀ちゃんに連絡する」
「…えっ!!?」
「誰かとご飯食べたくなったら1番に芳賀ちゃん誘うし、芳賀ちゃんもいつでも俺誘ってよ」


黒羽くんは真っ直ぐ私を見てそう言った。


「い、いいいいいいつでも、」
「うん。そりゃあ米花町と江古田だと直ぐ行く!って言うのは無理だろうけど、それでも…そうだなー、1時間、いや長くても2時間見ててくれれば余裕で準備して来れるし!」


黒羽くんの頭の中にはきっと今日の電車の時間とか諸々が駆け巡ったんだと思う。


「それって、さ、」
「うん?」
「ど、同情、ってこと?」


それってつまり、私が吐いた嘘に黒羽くんがまんまと騙されてるってわけで。
そんなこと(そりゃあ黒羽くんと毎日連絡取れるとか発狂するレベルで嬉しいけど!)黒羽くんに対して申し訳なさが先に来ちゃって楽しめないわけで…。


「何言ってんの?」
「へ?」
「俺たち親なし同盟の同士じゃん!」


そう言って黒羽くんは右手の拳は私の前に突き出した。
…これはよく部活中でもやることだからわかる。
黒羽くんのように私も右手の拳を突き出して、黒羽くんの拳にコツン、とぶつけた。


「同盟成立、な!芳賀ちゃん、これからよろしくー!」
「…よ、よよよよよよろしく、お願い、しま、す…?」


私の言葉に黒羽くんは今日一優しい笑顔を見せてくれた。
たくさんの疑問と少しの罪悪感。
でもそれ以上の喜びに包まれて初デートは幕を閉じた。



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bkm

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