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「…んっ…」
「気がついた?」
どこか重く感じる瞼をやわやわ開けると、やたら天井が低いところに寝かされていた。
身体に感じる振動と、低い天井。
…あぁ、私薬飲まされたんだ、と、ようやく頭が回ってきた。
どうやらそのままシートを倒し眠らされていたようだった。
「大丈夫?」
自分の左側から聞こえる声に目をやると、
「七海ちゃん?」
運転しながらも、心配そうに私を見ている快斗さんと目が合った。
「…何してるんですか」
顔の上に腕を載せ、快斗さんからは表情が見えなくなったであろう状態で呟くように言った。
…直前まで寝かされていたからか、思った以上に声が掠れていて、絞り出して言ったかのように聞こえなくもなかった。
「…ごめんな」
私の言葉に怒っていると受け止めたのか、快斗さんが謝罪を口にした。
「なんの謝罪ですか?」
腕を下ろし、快斗さんを見据えてそう聞いた。
「全部」
「全部?」
「連絡しなくてごめん。心配かけてごめん。迷惑かけてごめん。…ずっと隠してて、ごめん」
快斗さんは私に目をくれることなく、真っ直ぐ前を見てそう言った。
「私は、」
「全部」
「え?」
「…全部、話すから。着いたら全部、話す。だからもう少しだけ、待ってくれる?」
真剣な顔で。
でも私を見ることはなく、快斗さんはそう言った。
「…まだかかりますか?」
「ん?んー…あと30分てところかな」
「もう少し寝てていいですか?まだ少し、頭がボーッとする」
「うん。着いたら起こすよ」
快斗さんの言葉に、ゆっくりと目を閉じた。
再び睡魔に襲われる直前、快斗さんが元気そうで良かったと、そんなことを思っていた。
「…っ、」
それからどれくらい寝ていたのか、ようやく頭がはっきりしてきた私は、寝かされていたシートを起こすことにした。
すでに車は停められていて、快斗さんは運転席にはいなかった。
…ここは、どこだろうか。
どこかの別荘、の、ように感じる場所に車は停められていた。
快斗さんいないけど、ここで待っていても拉致があかないと思った私は車から出ることにした。
「七海ちゃん!大丈夫?」
車のドアを閉める音で気づいたらしい快斗さんは私に駆け寄ってきた。
よく見ると快斗さんの後ろに誰かいる。
「約束通り、全部話すよ。…親父!こっち!」
快斗さんがそう言って、後ろに立っていた男性を呼んだ。
「さっき言ってた七海ちゃん。七海ちゃん、これ俺の親父ね」
これ、と言って男性を親指で差してそう言った。
「快斗、親に向かってコレはないだろう、コレは」
「えー、じゃあ何、こちら?」
「お前は親に紹介する女性を連れて来るなら、その前後もある程度考えておきなさい」
「へーへー」
快斗さんとその男性のやり取りを見る限り嘘があるとは思えない。
でも、
「黒羽盗一は、ショーの最中に亡くなったんじゃ…」
快斗さんの父親は、すでに亡くなっているはずだ。
驚いている私に、
「お前、わざわざここに連れて来たのに俺の話をまだしていなかったのか」
「これからするとこなんだよ!」
盗一さんの方が驚いている様子だった。
俺らちょっと話しあるからと、呆れた顔をしている盗一さんを尻目に、快斗さんは私の手を引っ張りその場から離れるように歩き始めた。
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bkm