Treasure


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午前0時の魔法


1


あと、5分……。


あと5分で……。


世界一惨めな誕生日が、始まる――。





『午前0時の魔法』





今日は新一と付き合い始めてから、初めての私の誕生日……。


いつも探偵として忙しい日々を送っている新一と付き合い始めてから、デートのドタキャンは日常茶飯事だった。


それでも私の誕生日だけは、一緒にいてくれるって約束したのに……。




………さっき事件の依頼が入ってな、ちょっと遠くに行って来るけど、すぐに戻るから………




電話でそう告げられたのは昨日の夕方だった。


それから新一とは一切連絡が取れなくなった。


「……新一の、嘘吐き……」


一人暮らしの狭い部屋の中で、TVもつけていなかったせいか、私の呟きが哀しいくらいに響いており、その事実がより一層惨めさを増長させた。


「……嘘吐き……」


言葉を重ねる毎に、哀しさは募り、いつの間にか涙が溢れていた。


それを拭う事はせず、壁掛け時計に目を遣ると、あと1分で私の誕生日が始まろうとしていた。


「……嘘吐き……」


何度も何度も同じ言葉を繰り返す自分自身に嫌気がさしながら、言わなければ何かが壊れそうだった。


秒針がもう少しで頂点に差し掛かろうとしていた。


あと10秒、9……、とカウントダウンをし始めた私……。


……せめて連絡ぐらいは取れます様に……、心の中で祈りながら秒針が頂点に向かうのをただ眺めていた。


……3……2……1……


……0……、心の中でそう呟いた時、来客を告げるチャイムが鳴り響いた。


「……えっ?」


……真夜中の0時に誰が……、そう考えた時、ふとある人物の顔が過ぎった。


まさか、と思いつつも期待に胸が膨らみ、涙を急いで拭ってから、駆け足で玄関まで向かう。


そして、勢いよく開けた玄関の扉の向こうには、一番会いたかった人がいた。


「新一!?」

「ハッ、ハァ……。名前……、ま、間に合ったか!?」


肩で息をしている新一……、どうやら走って来たらしい……。


だが新一の言葉の真意が分からず、返答に躊躇していると、新一は自らの腕時計に視線を落としながらこう言った。


「0時ジャスト……、間に合った……」


はぁ……、と全身で息を吐く新一に、いつまで経っても疑問が解消されない私は問い掛けた。


「ねえ、新一……。間に合ったって……、何が?」

「何って……、誕生日だろ? オメー……」

「う、うん。そうだけど……」



……でも誕生日は今始まったばかりなのに、どうして?……



私がそう尋ねる前に、新一は口を開いた。


「……言いたかったんだよ、オメーに……。午前0時になったら真っ先にな……」

「……え……」

「誕生日おめでとう……。生まれてきてくれて、ありがとう……、ってな」

「……っ!!」

「……ん? 何だオメー、泣いてんのか?」


その言葉に初めて自分の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちているのに気付いた。


「だ……、だって……」

「……ったく、しゃーねーな……。ホラ、これ」


そう言って、手に持っていた包みで私の頭をポンッと叩いた。


「な、何これ……」

「何これって、誕生日プレゼント以外の何があるんだよ?」

「えっ!?」

「そんなに驚く様な事か?」

「あ、ううん、ありがとう……」


プレゼントを受け取り、包み紙を開けて行く。小さな箱の中から現れたのは、ネックレスだった。


ペンダント・トップには、ハート型にカッティングされた赤い宝石が付いていた。


「これは……?」

「ガーネット、オメーの誕生石だろ?」

「……新一……」

「ホラ、貸せよ。着けてやるから」


そう言いながら、私の手からネックレスを受け取った新一は、首の後ろに手を回し、ネックレスを着けてくれた。


「ありがとう、新一……」

「誕生日おめでとう、名前……」


優しく唇に触れるその温もりに、先程までの哀しく惨めな気持ち等、一気に吹き飛んでしまっていた。


それはまるで新一だけがかける事の出来る、魔法の様だった……。







...end.
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