Treasure


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数時間だけの同級生


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「……か、快斗……」

「ん? どうかしたか?」


私は私の右手を握りながら一歩前を歩く快斗に呼び掛けた。


「ね、ねえ……。やっぱり、恥ずかしいよ……」

「何で? 良く似合ってんじゃん」


快斗は私の方に視線を向けながら、そう言った。


江古田高校のセーラー服……、そのセーラー服のリボンを左手でギュッと握りしめながら、私は俯き加減でこう言った。


「で、でも……。私……」

「大丈夫だって、誰も気づかねーって! 名前だってつい数か月前までは高校生だったんだし」

「でも! でも今は、大学生なんだよ!!」





『数時間だけの同級生』





「ねえ……、やっぱり着替えても良い?」

「大丈夫だって、誰も気づかねーって言ってんだろ? ホラ、何処行きたい? 映画? カラオケ?」

「……帰りたい……」

「あっ! あそこの角の所! アイスクリーム屋、新しくオープンしたみたいだな! ちょっと行ってみねー?」

「話を聴いてよー!!」


私が快斗と出会ったのは、高校3年の夏の事……。少年のように屈託なく笑うその笑顔に、一瞬で心を奪われた。


少しした後、快斗から告白された時は、死ぬほど嬉しかった。付き合う事になった時も、こんなに幸せでいいのだろうか、と思ったほどだった。


しかし、不安が全く無かったわけではない。


私は快斗が通う江古田高校ではなく別の、女子高に通っていた。それに快斗はすごくもてていたから、いつも気が気じゃなかった。


そして私の方が2歳も年上だった事も、あまり喜ばしい事ではなかった。常にある不安を抱えていた私だったが、哀しい事にその不安は見事的中してしまった。


今年の3月に快斗よりも先に高校を卒業してしまった私は、4月から念願だった大学に入学した。


勿論高校を卒業するのは当たり前の、普通の事であるし、私には将来やりたい事があったから、ずっと目指していた大学に合格出来たのはとても嬉しかった。


だが、新しく大学生となった私と、未だに高校生である快斗との間に、時間のずれが生じたのもまた事実だった。


以前よりも会える時間が少なくなり、私の不安はより一層増えていった。


勿論メールや電話は毎日のようにしているが、それでも会えない日が増えていくのは辛かった。


そんな中で久々のデートに誘われた私は、嬉しくていつも以上にメイクに気合いを入れ、この前一目ぼれして衝動買いをしたワンピースを着て、待ち合わせの公園に行った。


そこで快斗に手渡されたのは、紙袋だった。


これに着替えて、と強く言われ、渋々公園のトイレで紙袋の中身を確認した私が目にしたものは、江古田高校のセーラー服だった。


直ぐに快斗に電話で嫌だと言ったが、結局聴き入れてはもらえなかった。そして現在に至る――


「……何で、こんな格好を……」


快斗がアイスクリーム屋に行っている間に、私は少し離れた場所で待っていた。


一人溜め息をつきながら、セーラー服に視線を落とす。


こんな姿を知り合いに見られたりしたら……、そう考えるだけで心が落ち着かない。


でも今日は久々のデートなのだから、このまま帰りたくないと言う気持ちもある。複雑な感情が絡み合いながら、この場から動く事は出来なかった。


「名前ー! お待たせー!!」


両手にアイスクリームを持って走って来る快斗……、その笑顔は初めて出会った時と同じ、少年のような笑顔だった。



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bkm

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